『ザ・グレイテスト・ジャーニー~ザ・ベスト・オブ・ケルティック・ウーマン』ケルティック・ウーマン/10月15日発売/TOCP-90001 2800円EMIMUSICJAPAN アイルランド。大ブリテン島の北西に浮かぶ小さな島国だ。詳しくは省くが、この島の北部アルスター地域の住民は少し前までイギリスの支配を嫌い、俗に北アイルランド紛争と呼ばれる、爆弾テロも辞さない武力闘争をIRA(アイルランド共和国軍)が主体となり繰り広げていた。その背景には宗教的差別があったりするのだが、現在は一応の決着はついているものの、完全な解決をみてはいない。爆弾テロ騒動が日常だったアイルランドは、歴史を遡るとケルトに行き着く。ケルトはカエサルの「ガリア戦記」に描かれる屈強勇猛なガリア民族の別称。一時はヨーロッパを席巻するほどの勢力を誇ったが、現在はアイルランドとスペインのバスク地方に残るだけだ。バスクにも解放戦線が存在し武力闘争を展開しているのは、偶然ではない気がする。民族の血が騒ぐのかもしれない。それはそれ。一方でアイルランドにはケルトの独自の文化が残されている。渦巻きに象徴されるような輪廻転生を孕(はら)む生命観、死生観は他に類をみない。大地母神・モリガン(戦いの神でもある)、ドルイド僧、ダナー神族……こうした存在は、ケルトの象徴である。そして一方では民俗学的に興味深い妖精や魔女、小人の話も残され、トールキンの「指輪物語」などもケルトの伝承が底本になっているように思う。アイルランドはキリスト教圏だが、20世紀後半からケルト的なるものの復権が叫ばれている。その顕れのひとつが音楽だろう。80年代後半に登場したエンヤを代表とするアイルランドのアーティストたちは、アイルランドに息づく独特の音を世界に敷衍(ふえん)した。そのうちの1アーティストが、女性5人組のこのケルティック・ウーマンだ。グループの名前からして、自らの民族的アイデンティティーの表明とも取れる。このアルバムは、彼女たちがこれまで制作した3枚のオリジナルアルバムを主体にしたベスト盤。どちらかといえばトラディショナルな音が多いが、日本でもフィギュアスケートの荒川静香が演技のBGMに使い有名になった「ユー・レイズ・ミー・アップ」、エンヤのカヴァー「オリノコフロウ」なども収録されている。アイリッシュ・サウンドの原郷に佇む思いに浸れる1枚だ。【ザ・グレイテスト・ジャーニー~ザ・ベスト・オブ・ケルティック・ウーマン 収録曲】1.ザ・コール2.ピエ・イエズ3.ハリーズ・ゲームのテーマ4.バタフライ5.ザ・ヴォイス6.ダニー・ボーイ7.オリノコ・フロウ8.ユー・レイズ・ミー・アップ9.シェナンドア~コントラディクション10.イニシュフリーの島11.ドゥラモン12.グリーン・ザ・ホール・イヤー・ラウンド13.アヴェ・マリア14.空と夜明けと太陽15.サムウェア16.ビヨンド・ザ・シー17.すばやき戦士18.アット・ザ・ケーリー19.スパニッシュ・レディ20.ウォーキング・イン・ジ・エアー
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