2024年 5月 3日 (金)

霞ヶ関官僚が読む本
日本家電業界の苦境にみる 大きなビジョンと野心の「欠如」

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米国産業界と金融界の衝突と融和

   1980代後半の米国産業界を席巻したLBO(他人の金を多用した買収)は、地域の雇用や、健全で保守的な企業文化を破壊するなど、多くの副作用をもたらした。また、この頃から制御不能になりはじめたウォール街の「カジノ資本主義」は、20年後のリーマンショックをもたらす。他方で、本書の主人公たちのような、強烈なエゴをもった経営者達が、米国企業社会のダイナミズムを形成し、最先端の金融技術を駆使しつつ産業の新陳代謝を実現してきたことも事実である。換言すると、産業界と金融界が、衝突と融和を繰り返しながら、ビジネスモデルを不断に進化させてきたのが米国資本主義だ。

   翻って思う。我が国の産業界・金融界は、キャラの立ったプレイヤーが大きな物語を作り出しているだろうか。苦境が続く家電業界の再構築を見ても、産業界・金融界のどちらにも、大きなビジョンと野心を持って、再編・再生のシナリオを描くプレイヤーがいないように感じてしまう。だからこそ、KKRがルネサスを買ったら何が起きるだろうかと、妄想してみたくなるのだ(結局、ルネサスは日本の官民連合軍が救済するようだが)。

   蛇足ながら、本書のもうひとつの魅力は、その迫真の描写力である。冒頭シーン、ジョンソンと顧問弁護士が、フロリダの大湿原に沈む夕日を眺めながらLBOを決断する下りは、映画のワンショットのようだ。他にも、役員会やレストランでの謀議の模様がテープ録音のように再現されている。米国調査ジャーナリズムの凄さを実感させる一冊である。

経済官庁(審議官級) パディントン

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