2021年 9月 21日 (火)

霞ヶ関官僚が読む本
若き難病患者が命がけのユーモアで描く、リアルなたたかい

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「困ってるひと」(大野更紗著、ポプラ文庫)

   著者はビルマ難民を研究していた大学院生女子。突然、原因不明の難病を発症し、病名が判明するまでに検査漬けの日々を1年間、その後、9カ月の入院治療を経て、退院。本書は発症前から退院までの過酷で劇的な日々を綴ったエンターテイメント・エッセイ。若き難病患者のリアルな状況が、具体的かつ率直に、びしびしと伝わってくる。

壮絶かつユーモラスな「難病体験記」

「困ってるひと」
「困ってるひと」

   難病の定義を見ると、①原因不明②治療法未確立③生活面での長期にわたる支障といった条件に④発生比率が低い(希少性)が加わる。したがって、症例数に限りがあるために、原因究明や治療方法の開発が進まず、結果的に、著者のように、病名が確定するまでに、15か所の医療機関(診療科)を巡る羽目になり、1年かかることも珍しくない。

   「難病」は一時的に症状が改善されることはあっても、現状では治らない。症状をステロイドや免疫抑制剤などで抑え込み、付き合っていくしかない。自己免疫疾患の著者も、内服薬だけで1日に30錠前後を服用し、24時間途切れることのない、熱、倦怠感、痛みといった全身症状を、目薬、塗り薬、湿布等々で、やり過ごしているという。

   発症前、著者は、ビルマの難民問題にどっぷりつかり、頻繁に現地に出かけて、難民キャンプに足を運び、その支援に奔走していた。そんな著者が「難病患者となって、心身、居住、生活、経済的問題、家族、わたしの存在にかかわるすべてが、困難そのものに変わった。当たり前のこと、どうってことない動作、無意識にできていたこと、『普通』がとんでもなく大変。毎日、毎瞬間、言語に絶する生存のたたかいをくりひろげている」

   本書では、発症後の凄まじい日々、具体的には、病名が判明するまでの医療機関渡り鳥生活、麻酔なしオペ等の検査地獄、過酷なステロイド治療による瀕死体験、臀部に大穴が開くおしり大虐事件などが次々と描かれる。

   しかし、著者自身が「この本は、いわゆる『闘病記』ではない」と語っているように、その筆致は、常に、客観的、しかもユーモラスであるために、極めて深刻な話であるにもかかわらず、そう感じさせない。まさに、セルフ・ルポルタージュ。裏表紙に記されているように、「命がけのユーモアをもって描き、エンターテイメントとして結実させた類い稀なエッセイ」だ。

   けれど、それはあくまで、著者の傑出した表現力、センスがもたらしたものであろう。読者は、本書を読み進める中で、難病という不条理な体験を通して、著者が感じ続けていた「孤独」を感じとるのではないだろうか。

「人間は、自分の主観のなかでしか、自分の感覚の世界でしか、生きられない。他人の痛みや苦しみを想像することはできる。けれども、病の痛みや苦しみは、その人だけのものだ。どれだけ愛していても、大切でも、近くても、かわってあげることは、できない。わたしの痛みは、苦痛は、わたししか引き受けられない」

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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