2020年 2月 17日 (月)

霞ヶ関官僚が読む本
現場を知る実務家が語る、あるべき貧困対策

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「生活保護VS子どもの貧困」(大山典宏著、PHP新書)

   学生時代、ボランティア団体に所属していた評者は、毎週通っていた母子家庭の生活保護の受給申請を手伝ったことがある。区役所に出向き、軽い知的障害があったその母に代わって、込み入った家庭事情と厳しい経済状況を説明し、何とか生活保護を出してほしいと頼んだ。最終的には認めてもらったが、申請を受け付けてもらうまでのケースワーカーの対応には、ずいぶん腹を立てた記憶がある(先方からすれば、「憲法25条」や「生存権」といった生硬な言葉を振りかざす生意気な若僧をさぞ迷惑に感じたであろうが…)。

   その後、自治体で福祉行政に携わった際には、「○○は、1日、パチンコをやっている。こんな奴に生活保護を出すなんて税金の無駄遣いだ」、「△△は、高級車を乗り回している。ちゃんと調べたのか。役所の怠慢だ」といった通報、苦情を多数いただいた。また、頻繁にトラブルを起こす受給者に振り回され、疲弊するケースワーカーの姿を目の当たりにし、現場の苦労の一端を知った。

   生活保護行政をめぐっては、必要な人に届いていない(漏給=ろうきゅう)といった批判がある一方で、「不正受給」などにより不必要な人に給付されている(濫給=らんきゅう)といった真逆の批判がある。

   「真に支援が必要な人をしっかり見極めて給付すればよい」と言われるが、厳しい社会・経済環境の下、心身を病み、「ふつうに」がんばることが難しい人が増えている中で、支援の要否を簡単に線引きできる状況ではなくなっている。

   本書は、自治体の現場で生活保護の実務に従事しながら、同時に、ボランティアとして「生活保護110番」を運営し、生活困窮者の支援を続けている著者が、自らの経験を踏まえて提示する貧困対策見直しの処方箋である。

両極に揺れ動く生活保護行政

生活保護VS子どもの貧困
生活保護VS子どもの貧困

   生活保護行政は、その時々の社会の「雰囲気」を反映して、「適用拡大」と「給付抑制」の両極の間を揺れ動いている。著者によれば、「人権モデル」と「適正化モデル」との間で、メディア報道を交えて、激しい攻防が繰り返されてきたという。

   まず「適用拡大」である。従来、生活保護は高齢者、母子家庭、障害者を主たる対象として運営されてきた。しかし、2006年以降、NHKスペシャル「ワーキングプア」など、日本に広がる貧困を告発する報道が増え、さらに、リーマンショックを契機とした「年越し派遣村」などを背景に、働くことができる若者にも生活保護が必要との認識が広がった。現場(福祉事務所)の運用も大きく変わり、間口が広がり、職の無い若者も受給者となった。

   しかし、その反動が来る。著者の言葉を借りれば、2012年のNHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」がその象徴である。受給者が200万人を超え、過去最多を記録する状況下で作成されたこの番組は、受給が長引く中で就労意欲を失っていく受給者、巨額の生活保護マネーに群がる貧困ビジネスの実態などに焦点を当てた。さらに、年収数千万円ともいわれる芸能人が母親に生活保護を受けさせていた(「もらえるもんはもろうとけばええんや」)という報道も大きな反響を呼んだ。

   こうした「給付抑制」を求める世論を背景として、昨年、生活保護基準が引き下げられ、不正受給の防止等を目的とする生活保護法の改正が行われた。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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