2024年 4月 28日 (日)

霞ヶ関官僚が読む本
21世紀の官僚像か 自らの考えを本にして世に問う現役たち

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   年齢の比較的高い世代を通じて世論形成に大きな影響力をもつ雑誌に、「月刊文藝春秋」がある。昨年(2013年)8月号から本年2月号まで、「ドキュメント現代官僚論」が連載されていた。ひところの官僚バッシングとは違い、「日本は内ゲバやっている場合じゃないですよ」という印象的な言葉からはじまったこの連載は、それぞれの省庁が直面する課題に迫る好連載であった。そんな中、自らの見解を世間に問うた現役の官僚の本を何冊かみてみたい。

「一片のやせ我慢が立国の大本」と喝破

内閣府政策統括官による「論語と『やせ我慢』」
内閣府政策統括官による「論語と『やせ我慢』」

   内閣府政策統括官(経済社会システム担当、局長級ポスト)である羽深成樹氏が、先ごろ出版した「論語と『やせ我慢』」(PHP研究所)は、副題に「日本人にとって公共心とは何か」とある。日本人の倫理観の根底には儒教の教えがあるとして、論語を土台に考察を行う。儒教ぎらいとされる福沢諭吉の考えをたどり、「一片のやせ我慢が立国の大本である」と喝破する。また、「時代の風を受け止め、消化し、中庸を見出して、伝統の上に、新しいスタイルをつくり出していく。それが日本流といえるのではないか。」と提起する。

   著者は、あとがきで、「あたりまえのことだが、国は公共性の空間がなければ成り立たない。わが国を取り巻く難しい環境のなかで、日本の民主主義は、公共性の空間は、どうなっていくのか。本書が、そんなことを考えていただく契機となれば幸いである。」とする。

   なお、「論語」に関しては、呉智英著「現代人の論語」(文春文庫 2006年)も味わい深い。

「高橋是清」が発する現役官僚へのエール

   本年1月まで内閣府事務次官であった松元崇氏も、現役官僚時に、「恐慌に立ち向かった男 高橋是清」(中公文庫 2012年、単行本「大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清」(中央公論新社 2009年)を大幅改訂し文庫化)、「山縣有朋の挫折―誰がための地方自治改革」(日本経済新聞出版社 2011年)、「『持たざる国』への道―『あの戦争』と大日本帝国の破綻」(中公文庫 2013年、単行本「高橋是清暗殺後の日本―『持たざる国』への道」(大蔵財務協会 2010年)を大幅改定し文庫化)を出している。「高橋是清」の「はじめに」で、「財政的な負け戦が社会不安を醸成すること」を強く認識させられる。また、高橋是清の生涯から「どんな困難に遭遇しようとも、決して希望を失うことなく臨機応変に事態に対処していく姿には強く勇気づけられる」というのは、絶望的に巨額な公的債務を抱える、自らも含めた日本の現役官僚へのエールだと思う。

「幻想主義」からの脱却を主張

   現在内閣官房副長官補(次官級ポスト)・国家安全保障局次長を務める兼原信克氏が、2011年に出した「戦略外交論」(日本経済新聞出版社)は現役外交官による極めて論争的な著作だ。「今日の日本のように、戦略環境がどんどん悪化し、かつ財政破綻が心配される国では、『バターか、大砲か』という議論がないほうがおかしい。現実主義に立ち、開かれたかたちで議論を尽くして国民の生存本能と良心を活性化させ、国民の選択に長期的決定を委ねるのが、民主主義国家における安全保障政策である」としつつ、戦後日本の安全保障論議を彩ったとする「幻想主義」(fantasy)からの脱却を主張する。

   現役の官僚が、担当する個別政策・法令の解説本を除き、本を世に出すことには、役所内で好ましい印象を与えない雰囲気が過去にあり、今も全くないわけではない。個人の思惑を超え、自分の考えを公に示し、世の中と積極的にコミュニケーションをとろうとする、これら高位の官僚のスタイルに21世紀の新しい官僚像のヒントがあるのかもしれない。

経済官庁(課長級 出向中)AK

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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