2024年 4月 28日 (日)

SF短編名手の「ノンフィクション」 実業家の父襲った政官巻き込む陰謀

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弁護士の活躍

   本書は、テーマがテーマなだけに展開が重苦しくなりがちだが、清々しい思いで読める箇所もある。ひとつは科学の世界での星一の功績であり、野口英世との交流もさることながら、第一次世界大戦で疲弊したドイツ科学界への寄与は陰徳と呼ぶに相応しい。評者は、星新一が親の敵討ちをする本書の主要テーマよりも、父親のこうした貢献を顕彰した側面に妙味を感じる。

   そして圧巻は、あらぬ嫌疑を掛けられた星のため立ち上がる弁護団の胸をすくような弁論だ。刑事法廷における水際立った弁護が「花の弁論」として伝説となっている花井卓蔵弁護士の立論は、その白眉であろう。代議士でもありその質問が「歴代政府の鬼門」とまで評されるだけあって、花井は、国際情勢を念頭に政策を論じるなど、常に大局的見地から星の事業の正当性を主張している。

   権力と対峙し、マスコミにもバッシングされ世間に見放されたかのような時、なお一人、その傍を離れず代弁者として戦うのが弁護士である。本書の星一にとって、花井ら弁護団は現に唯一の光明と言ってよい。その意味で在野法曹の存在は、絶望的な窮状にある人を社会的・精神的に完全に抹殺・孤立させない制度的保障とさえ感じられる。むろん、弁護士が活躍する以前の問題として、権力の謙抑的な行使こそが本書に学ぶべき教訓ではあるが、残念なことに平成の世にもなお冤罪はあり、その分、在野法曹の役割もなお重い。弁護士界に、花井の視野と気概が連綿と引き継がれていることを祈りたい気持ちとなる。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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