2024年 4月 26日 (金)

不況下の緊縮財政がもたらす危険を警告

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経済政策で人は死ぬか?――公衆衛生学から見た不況対策(デヴィッド・スタックラー、サンジェイ・バス著 草思社)

   2014年の我が国の公的債務残高(地方分を含む)はGDP比2.3倍に達し、財政破綻が懸念されるギリシャ(1.8倍)を上回る先進国最悪の水準となっている。国際公約となっている2020年のプライマリーバランスの黒字化は容易ではなく、さらに、その先の超高齢社会の道行きを思うと、ため息が出る。

   幸いにして、今は15年ぶりの株高などアベノミクスに支えられて、「差し迫った危機」に怯えるような切迫感はないが、冷静に足元を見つめると、油断すれば瞬く間に深刻な事態に陥る危うい状況であることに変わりはない。

   こうした財政状況について、「一度、破綻してやり直した方がよい」といった無責任な意見や「社会保障給付を徹底的に削減すればよい」といった過激な意見も見られるが、リーマンショック以降、ギリシャをはじめ欧州諸国で次々と起こった社会の混乱、そして今もなお続く経済の低迷を見る限り、安易で硬直的な処方箋では通用しないことは明らかである。

   本書は、大恐慌(1929年)以来、世界各地で発生してきた破局的経済危機、ソ連崩壊(1991年)、東アジア通貨危機(1997年)、そして記憶に新しいリーマンショック(2008年)を例に取り、その際に採られた経済政策が、人々の健康や生命にどういう影響を与えたのかを、平均寿命、死亡率、自殺率、感染症の発生状況など具体的な数値の裏付けをもって実証している。

   読み進めるにつれ、経済政策次第で、国民の健康がいかに大きく左右されるかが示される。特に、不況時に採用される「緊縮財政」が、公衆衛生対策のみならず、住宅対策、労働政策などの縮小を通じて、低所得者や失業者などの死亡や疾病リスクを高めているとの指摘は重要だ。加えて、景気対策という視点からも逆効果だという。

   金融・財政危機と言えば、真っ先に「緊縮財政」が思い浮かぶが、その選択がいかにリスクを伴うものであるかを再認識させられる本である。

  • 経済政策で人は死ぬか?
    経済政策で人は死ぬか?
  • 経済政策で人は死ぬか?

不況時の国民の健康は、経済政策次第

   一般的に「不況は健康に悪い」、すなわち、うつ病、自殺、アルコール依存、感染症等が増加すると考えられているが、現実は違う。1990年代初頭に経済恐慌に見舞われたスウェーデンでは自殺者は増えなかったし、東アジア通貨危機の際、低所得者への食料費補助やワクチン接種等を維持・強化したマレーシアでは、感染症の増加等の事態は避けられた。今回のリーマンショックにおいて、史上最悪の金融危機に直面したアイスランドでは死亡率は上昇しなかったし、ノルウェーやカナダではむしろ国民の健康状態が改善した。これらの国々では、不況下でもセーフティネット対策が削減されずにむしろ強化されたことが奏功したという。

   しかし、ソ連崩壊時のロシア、東アジア通貨危機時のタイやインドネシア、そしてリーマンショック時のギリシャ、イタリア、スペインでは、死亡率、自殺率、うつ病や感染症の発症率等の健康指標が悪化した。これらの国々では、極端な緊縮財政を採り、セーフティネット予算が大幅に削減された。融資を受けるIMF(国際通貨基金)等から、債務返済や財政再建を急かされ、急激な民営化等の市場改革を迫られる中、結果として、大量の失業や住宅差し押さえといった事態を招き、それが国民の健康状態の悪化につながったという。

   つまり、「健康にとって本当に危険なのは不況それ自体ではなく、無謀な緊縮政策」であり、問われているのは「不況に際して政府がとる政策」であるというのだ。

   本書の言葉を借りれば、

「不況時においてもセーフティネットをしっかり維持することが、健康維持のみならず、人々の職場への復帰を助け、苦しいなかでも収入を維持する支えとなり、ひいては経済を押し上げる力になる」
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