2024年 5月 4日 (土)

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治療法開発へ独自のアプローチ――アミロイドβの分解をめざす

   現在使用されているアリセプトにせよ、メマリーにしても、あくまでもアルツハイマー病の進行を遅らせる効果を持つ対処療法に過ぎない薬であって、「治す」薬ではない。

   1990年代後半になって、ようやくアルツハイマー病の最上流にあるのがアミロイドβであるとの仮説を多くの研究者が支持するに至り、世界各地で根本治療法の開発が本格的に始まった。

   しかし、残念ながら、現時点ではまだ成功した治療法はない。

   ワクチン療法も免疫療法も、重篤な副作用が生じた、効果が認められなかったなどの理由で、ゴールに辿り着いていない。また、アミロイドβの「産出」を抑制しようとする阻害薬の開発も多くの製薬会社がチャレンジしているが現段階ではいずれも失敗している。

   そんな中で、著者が所属する理化学研究所脳科学総合研究センターは、アミロイドβの「産出」抑制ではなく、「分解」を促進するという、全く異なるアプローチで治療法の開発を進めている。つまり、脳細胞から出てくるゴミの量を減らすのではなく、脳内のゴミ回収システムを再生しようという試みである。

   筆者が率いるチームは、気の遠くなるような根気のいる繊細な作業を繰り返し、アミロイドβ分解の仕組みを解き明かし、その分解酵素「ネプリライシン」を特定した。マウスの実験によれば、このネプリライシンは、脳内のアミロイドβを減らすだけでなく、記憶や認知機能の改善も見込めるとの結果が出ており、これを活性化できればアルツハイマー病の本格的な治療や予防が可能になるのではと期待されている。

   こうした成果を基に、今は、①注射によりネプリライシン遺伝子を導入する遺伝子治療法と、②飲み薬により薬理学的にネプリライシンを活性化させる治療法の2つの開発を進めているという。

   「2025年には、アルツハイマー病の根本治療法を実用化したい」というのが著者の目標だ。加えて、治療研究の加速のためにも、バイオマーカーの探索と体外診断薬の開発も実現したいという。

   「協調と競争」、著者は、このアルツハイマー病の研究を進めるに当たっての理念としてこの言葉を掲げる。研究はひとりではできない。チームであたり、国内外の機関と共同研究が必須だという。これから先も、まだまだ幾多の困難が待ち受けていようが、著者の力強いリーダーシップの下、一日も早く、世界中が待ち望む根本的治療法と予防法が開発される日が来ることを期待したい。

ペンネーム 

JOJO(厚生労働省)

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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