世界第5位の移民受け入れ大国ニッポン 予想される「混乱」は避けられるのか

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   ■今や世界5位「移民受け入れ大国」日本の末路:「移民政策のトリレンマ」が自由と安全を破壊する(三橋貴明著、徳間書店)

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   みなさんは「トリレンマ」という言葉をご存知だろうか。インターネットで検索すると「不可能の三角形」とあり、「国際金融のトリレンマ」が紹介されていた。これは、ロバート・マンデルが提示した説であるが、国際金融において、(1)自由な資本移動、(2)為替相場の安定(固定相場制)、(3)独立した金融政策、の3つを同時に達成することはできないということである。

   近年では、ハーバード大学教授のダニ・ロドリックが「世界経済の政治的トリレンマ」という仮説を立てている。(1)グローバル化(国際経済統合)、(2)国家主権(国家の自立)、(3)民主主義(個人の自由)、の3つを同時に達成することはできないというものである。

   英国のEU離脱や米国のトランプ政権の移民排斥ともとれる政策などは、日本では他の先進国の動向と合わせてナショナリズムの台頭のような形で報道されることが多いが、ロドリックの仮説に照らせば、グローバル化と国家主権、民主主義の3つのうち2つを達成しようとすれば残りの1つは犠牲にせざるを得ず、英国も米国も民主主義を犠牲にするという選択はないだろうから、本書は、これらの政策は過度のグローバル化に対する調整として合理的なものであるとしている。

「移民政策のトリレンマ」とは

   では我が国はどうか。日本はかねがね移民の流入が少ない(移民に対して厳しい)国だと思われてきた(実際、私もそう思っていた)が、本書によれば、国連やOECDが統計をとる際に用いる「移民」の定義、例えば本国以外の国に1年以上滞在している者、で数えると、日本は世界第5位の移民の受入国になるとのことである(以下、本文で「移民」というときはこちらの定義に従う「移民」を指す)。

   この定義に照らせば、海外赴任のビジネスマンなんかも移民になるが、私自身の肌感覚で言えば、コンビニの店員さんをはじめ、身近なところで外国人に接する機会が年々増えているという実感もある。特に最近は、介護従事者や家政婦等の受入れが増加しており、国内に滞在する外国人は今後増加の一途となるが、本書は、「移民政策のトリレンマ」を掲げ、近年のこうした政策に対して警鐘を鳴らしている。

   筆者が提唱する「移民政策のトリレンマ」とは、(1)移民の受入れ、(2)国民の自由、(3)安全な国家の3つを同時に達成することはできないとするものである。

   本書では、欧州諸国をはじめ多くの国の現状について、このトリレンマに照らして分析をしている。特に、3つめの「安全な国家」について、テロや犯罪からの身体的な安全に限らず、「安心して暮らせる」といった社会的な安全も含めて考えれば、スウェーデンやイギリスといった、以前は「福祉国家」として学校で習った記憶のある国々がいかにこのトリレンマに喘いでいるかがよく分かる。

   こうした福祉国家は、例えば自国民と同水準の生活保護を移民に提供するなど、移民も含めた福祉行政が財政的を圧迫しており、これが英国のEU離脱を決定づけた背景にある。

少子高齢化は、経済を成長に転じるチャンス

   欧州の福祉国家ほどではないが、我が国でも同様の政策はあり、遅かれ早かれ筆者が提唱するトリレンマに陥ることも十分考えられる。我が国の少子高齢化は人口が減少に転じるところまで来ており、経済活動の維持の観点からも一定程度の移民の受入れは必要だろう。

   しかしながら、筆者は、日本のかつての高度成長期を挙げ、現在の少子高齢化は、当時と同様に経済を成長に転じるチャンスと説く。すなわち、高度成長期に日本は人手不足の状態にあったが、同時期の欧州と異なり、移民に頼らず(当時の国際情勢に照らして受け入れられなかったこともある)、技術開発や人材育成を通じた生産性の向上でこれを乗り切ってきたというのである。

   折しも政府は、先週「未来投資戦略」や「骨太の方針」を閣議決定したが、未来投資戦略の中心は技術革新を通じたスマート社会(Society 5.0)の実現であり、骨太の方針でも人材育成に相当の記述が割かれている。当時と状況が異なるところもあるが、「人手不足」だからといって(たしかに失業率は低い)安易に外国人に頼るだけではなく、自動車の自動走行をはじめ、我が国が技術立国として競争力を取り戻すという選択肢もあるのではないかと思い直した一冊である。

銀ベイビー(経済官庁・Ⅰ種)

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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