2019年 12月 12日 (木)

鈴木雅之、シンガーではない
ヴォーカリストとしての熟成

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   「SINGER」と「VOCALIST」の違いについて考えたことがあるだろうか。

   日本語に訳すと両方とも「歌う人」「声楽家」「歌手」ということになるのかもしれない。広く「歌うこと」を職業にしている人のことである。

   でも、そこには微妙なニュアンスの違いもある。自らを「VOCALIST」と称する鈴木雅之は常々こう言っている。

   「シンガーは一つのジャンルの歌を極める人、ヴォーカリストというのはあらゆるジャンルの歌を歌いこなし、自分の色に染めあげる人」。

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海苔漁の祖父の船で歌った三橋美智也の歌

   鈴木雅之は1980年にシャネルズでデビュー、2015年にはデビュー35周年を記念してシャネルズやラッツ&スター時代の曲も網羅した初めてのオールタイム「ALL TIME BEST~Martini Dictionary」、去年は自身のソロ活動30周年と還暦に合わせたオリジナルアルバム「dolce」を発売と毎年精力的な活動を展開してきた。その中で自分の活動について話していたのが「SINGER」と「VOCALIST」の違いだった。事実、「dolce」は、松任谷由実、玉置浩二、岡村靖幸、久保田麻琴、KREVA、谷村新司、横山剣、アンジェラアキら、スタイルの違うシンガーソングライターの曲を歌いこなしレコード大賞の最優秀歌唱賞を受賞した。

   そんな区切りの数年を超えて60代になった今年、彼が発売したのがカバーアルバム「DISCOVER JAPAN III」だった。2011年に一作目が発売された時、その動機について「震災を機にもう一度日本の歌を見つめなおしてみようと思った」と発言していた。

   「日本の歌再発見」として始まったシリーズは2014年に「II」が出た。内容はより「ルーツ的個人史」的な焦点に絞られたものなっていた。

   意外だったのは、大瀧詠一や柳ジョージ、桑名正博らの曲に交じって三橋美智也の「星屑の街」が入っていたことだった。彼は、アルバムのインタビューの時に「祖父が海苔を取る船を持っていて、自分はその船の舳先で三橋美智也の歌を歌っていた。まあちゃん上手いねと言ってもらって、それが他人に歌を褒められた最初の体験」と語っていた。目下進行中のツアーのパンフレットにも「思えば海苔漁に出る祖父の船に乗せてもらい歌を歌うことが楽しくてしょうがなかった少年時代。それがヴォーカリストとしての原点でした」と書いている。

   鈴木雅之は1956年9月22日、東京の大森の生まれ。実家が町工場だったことは広く知られている。でも、祖父の話はこれまであまり紹介されていないように思えた。彼が子供の頃大森では海苔漁が行われていた。江戸前の海苔である。今も大森には「海苔のふるさと館」という博物館もある。そんなエピソードが縁で彼は、今年大森の「海苔親善大使」を任命され、ツアーのステージでも海苔の話をしていた。

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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