2019年 11月 16日 (土)

どう死ねるか、どう見送れるか――在宅看取りの条件――

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■「痛い在宅医」(長尾和宏著、ブックマン社)

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   誰もがいつかは死ぬ。アタリマエの事実だけれど、自分自身の問題となると、どうしても及び腰になる。いつかは向かい合わなければならない問題だと思いながらも、ついつい目を背けようとする自分がいる。

   昨年、生まれた赤ちゃんは約94万人。これに対して亡くなった方は約134万人。日本は多死時代を迎えた。と同時に、人生の最期をどこで迎えるかも難しい選択となってきた。戦後、病院で死ぬことが一般化したが、最近は、老人ホームやサービス付き高齢者住宅などで亡くなる方が増え始めている。

   病院での長期入院が見直され、「ときどき入院、ほぼ在宅」という療養スタイルが増えつつある中で、今の時代に合った「在宅医療」の在り方が模索されている。在宅酸素、医療用麻薬による疼痛管理、人工呼吸器など、病院で行われるような治療も技術的には十分可能であり、在宅療養も有力な選択肢となっている。

   しかし、多くの国民が在宅で死ぬことを希望しつつも、残念ながらそうはなっていない。

   本書の著者は、これまでに2000人もの在宅看取りを行い、『「平穏死」10の条件』など在宅医療の素晴らしさを語ってきた第一人者。本書では、著者の著作に感銘を受けて、在宅看取りに挑戦した一人の読者の辛い経験を赤裸々につづり、現在の末期がんの在宅医療が抱える課題を明らかにしたものだ。

「書店に行けば、在宅医療を賛美するような一般書がたくさん並んでいる。私もそんな意図はないが、振り返ってみると無意識のうちに美談ばかり書いてきたような気もする。しかし『現実は本の通りにいかないやないか。どうしてくれる!』というお叱りの手紙やメールが全国の読者から時々届く」
「今回、私の数ある著書の中で一番波紋を呼ぶに違いない作品となった。同じ在宅医仲間から批判の矢が飛んでくることも覚悟している。しかし、国民から見ればまだ半信半疑の在宅医療、在宅看取り。だからこそ現実の世界を描き、しっかり膿を出すことで良い医療に変わるのではないか」

平穏死を願って在宅看取り、うまくいかなかった娘の体験

   本書は、肺がんの終末期を迎えた父親が、平穏死できるよう、在宅での看取りを実行した井上トモミさん(仮名)の体験を中心に展開される。

   井上さんの経験を要約すれば、次のようになる。

(1)末期の肺がんのために余命わずかとなった父親が、在宅で平穏死を迎えられるよう、総合病院を退院させた。
(2)在宅での医療は、在宅看取りの経験のあるクリニックの医師に依頼。しかし、深刻な呼吸困難への対処がほとんどなされず、退院から4日後に、「窒息」の状態で死亡。
(3)退院から死亡までの間に、医師が訪問したのは退院直後の1回。初診だったが、いくつかの質問の後、座薬の処方と在宅医療機器の手配を行った上で、「何かあったら呼んでくださいね。次の訪問は10日後の金曜日になります」で終了。
(4)その後、訪問看護師の訪問が2回。2回目の訪問時(退院から3日目)、父親は呼吸困難に苦しんでいたが、特段のケアはなし。
(5)死亡前日の夜、井上さんが直接、医師に電話連絡し、深刻な状態を訴えるものの、「まだご家庭でできることがあります」として、モルヒネの1時間間隔での投与を指示される。
(6)翌朝、モルヒネの効果が認められず、父親の窒息状況が一層深刻化。医師に電話連絡を試みたが、事務長からの返電。いよいよ厳しい状況となり、医師と訪問看護師に往診を乞うものの、臨終には間に合わず。

   平穏死を願って、敢えて在宅看取りに挑戦したにもかかわらず、窒息状態で苦しむ父親を前にして何もできなかったという後悔の残る井上さんは、著者の元を訪れ、こう語った。

「病院ではなく家で死んだほうが平穏死できる。在宅医療は素晴らしい。先生の本には、何度もそう書いてありました。だから私は、父を在宅で平穏死させたかった。だけど、私の父は平穏死できなかった。正直、長尾先生の本と出合わなければ良かったと、今は後悔しています」
「在宅のがん患者が、苦しんで死んでいったなんていう、のたうち回って死んでいったなんていう、そういう長尾先生の文章がどこにありましたか!」
「国に在宅医療推進なんて言ってほしくないのです。<在宅で死ねたらハッピーですよ>なんてさ、ふざけたこと言ってんじゃないよって、今はそんな気持ちなんです」

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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