2024年 4月 26日 (金)

国に頼れない将来が訪れたら... 我々の「心構え」が問われている

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やや皮相的な最近の言説に、より深い洞察の必要性を示唆

   編著者がいうように、財政破綻を考え、国に頼れない将来に備えて議論することは、自ら民主主義を鍛えていくということになると思う。

   苦いことではあるが、我々の「心構え」を問われている問題だ。様々な政府の活動による安心・安全などの提供は、空気のようなものだ。この提供は、確かに誰かがコストを負ってくれれば、コストを負わなかった人も恩恵を受けられる。そのため、合理的な人々は、フリーライダー(ただ乗り)となる。財政についていえば、将来の世代につけを回している状況にある。これを分析する学問の1つが、「社会学」である。その研究成果によれば、グループの人数が少ない場合やグループ内のコミュニケーションが可能な場合、コスト負担に協力が得られる。また、このようなフリーライダーを観察した人は、そうでない人よりフリーライダーになりやすいという。しかし、単純な合理性からは皆がフリーライダーになってしまうのに、現実にはそうでもないことがわかっている。

   「これが、社会学です」と銘打って、社会学者の英知を結集し、現在の社会学においても生命力を有する70の項目を解説し、「新しいスタンダード」となる著作が、「社会学の力~最重要概念・命題集」(友枝敏雄ほか編 有斐閣 2017年6月)だ。上述のフリーライダーの説明は、「合理的選択と社会的ディレンマ」(198ページ以下)を参照したものだ。

   他にも「想像の共同体と伝統の想像」(238ページ以下)など興味深い項目がならぶ。「古くからの存在と考えられている伝統には、実は近代に創出されたものが少なくない。ただし、主観的な意味世界のうちでは、これらは近代以前の古いものとしばしば結び付けられている」という。すなわち、「創られた伝統であっても、それには何らかの社会的・政治的機能がある。そのような機能なしには、その伝統が存在することはないだろう」という最新の社会学理論からすれば、例えば、大相撲に関して、実は最近創られた伝統だから、大したことはないというような、やや皮相的な最近の言説について、より深い洞察の必要性を示唆する。座右において、様々な社会現象について参照するのにふさわしい1冊だ。

経済官庁 AK

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。
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