2018年 11月 19日 (月)

「シン・ゴジラ」のような巨額の国家債務 最大の敵は「無関心」

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   ■「オペレーションZ」(真山仁著、新潮社)

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   ギリシア神話が好きな人は、カサンドラという不吉な預言者の名前を記憶にとどめているに違いない。神から予言能力を与えられたが、それを誰も信じないという呪いもかけられた悲劇のトロイ王女の名だ。霞ヶ関の中で、財務省(旧大蔵省)は、まさに「カサンドラ」となっている。景気は「気」からというのに、いつも不吉なことしか言わない。そして、いまのところ、財務省が予言するような財政破綻は結局のところ起こっていない。しかし、日本の財政の将来推計をしてきた財政学者は、団塊世代が75歳になるメドである2025年までに歳出・歳入について何らかのきちんとした措置をとるべきと警鐘を鳴らす。

   1000兆円を超える国家債務は、人気映画「シン・ゴジラ」で、なんとか東京の中心で凍結させたゴジラのようなものだ。ある日、突然、凍結が解けて、破壊を再開するという悪夢と、財政破綻を重ね合わせることができるのではないか。

財政改革は夕張市のような中規模自治体が一番難しい

   人気作家の真山仁氏が、昨年秋に「オペレーションZ」(新潮社)を世に問うた。本の帯の「破滅(デフォルト)を回避する道はただ一つ、日本の国家予算を半減せよ!」という刺激的な言葉が目に飛び込む。この近未来小説で、総理は、もうあとがないという意味で「オペレーションZ」を発令し、歳出半減という取り組みを一気に実現しようと試みる。

   本書発行に際しての新潮社の広報誌「波」2017年11月号でのインタビューによれば、真山氏は、財務省の若手(課長補佐クラス)と勉強会のようなものをはじめたことがこの本執筆のきっかけになったと明かす。その意味では、歳出半減のための案として財務省が提示したことになっている、社会保障関係費と、地方公共団体間の財政格差の調整のために存在する地方交付税交付金をゼロという案は、これまでも財政専門家が提唱してきた案であり、この本を産経新聞で書評した慶応義塾大学教授の小林慶一郎氏もそう認める。

   まさに、財政版「シン・ゴジラ」であり、「国家破綻」を避けるべく、官邸をはじめとして、政治家、財務官僚、新聞記者などがそれぞれの使命感や思惑で様々に駆け巡る。そして、総理の政治生命をかけた「オペレーションZ」に対して、世論はどう反応したか。そのディテールも含めストーリーテーリングには、新聞記者を経て小説家になった真山氏の腕がさえ、一気に読むことができる。この本に出てくる人気SF作家は、自らしたためた建白書に、「大増税で天国へ」、「大削減で、共に地獄へ」、そして「究極の革命案」として「日本を破綻させて、国債を棒引きにしてしまえば一発逆転」の案を掲げる。最後の案は、戦後のインフレーションを振り返れば、まさに、日本社会に深い傷跡を残すことになる。

   ただし、真山氏も取材したという、現実の破綻自治体夕張市をモデルとしたとおぼしき中規模の自治体とその市長の描き方には違和感を強く感じた。現実の夕張市の市政について賛否両論があるとは聞く。しかし、小規模自治体はいろいろやりようがあるが、夕張市のような中規模自治体が一番難しい。むしろ、兵庫県小野市(参考:「20XX年 地方都市はどう生きるか 人口5万人・兵庫県小野市の挑戦」日経BP社、2018年5月)のような中規模自治体での行政経営の成功事例も取材してほしかった。仮に、日本において現実に財政改革が成功するとすれば、真山氏が強く批判する「おまかせ民主主義」に対して、必ずしも多数ではないが、現場で地域社会を少しでもよくしたいと、苦闘する自治体や職員、それに参加する市民との連携が不可避だ。真山氏がいうように、最大の敵は「無関心」だ。

   ぜひ、この本を手にとって、ひとりひとりが、日本の将来を考えてほしいと切に願う。

経済官庁 AK

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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