2018年 12月 19日 (水)

みんなの意見がなぜ正しいのか、どういう時に正しいのか

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■『「みんなの意見」は案外正しい』(ジェームズ・スロウィッキー著、角川書店)

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「集合知」の威力についての古典的事例

   『「みんなの意見」は案外正しい』(原著2004年、邦訳2006年)は印象的な事例の紹介からはじまる。1906年の英国プリマスで、科学者ゴールトンが、恒例の食肉用家畜見本市に出かけた。雄牛の重量のコンテストが開かれており、チケットを購入した人たちがその重さを当てようとエントリーしていた。ゴールトンは、家畜についての素人を多く含む約800人の参加者の回答をみせてもらった。ゴールトンは、回答者の平均値はまったく的外れな値になるだろうと予想していた。平凡な人々の能力は、一握りの優れた人にはまったく敵わないはずである。さて、予想の平均は1197ポンドであった。実際の重さはというと、実に1198ポンドであったのだ。

   「集合知」に関する事例、その背景にあるロジックを一般向けに解説する書籍として、本書は古典的な地位を占めている。集合知とはいっても、雄牛の目方を当てるような純粋な認知に関するものばかりではない。人混みを歩くような調整の問題、少人数のグループで課題を解決する場合、市場、民主主義まで様々な問題がテンポよく料理されていく。

多様な個人により、独立して表明される意見が重要である

   これらの事例を通じて、本書の邦題にある「みんなの意見は案外正しい」、その「案外」とはどのようなものなのか明らかにされていく(なお、本書の原題にはこの「案外」のニュアンスはない)。繰り返し説かれるのは、意見は個人が独立して表明するものでなくてはならないことである。表明される意見の多様性があって、はじめてグループとしての正しい知識に至ることができる。みなが互いの意見に流されてしまうのでは意味がない。2003年のスペースシャトル・コロンビア号の大気圏再突入時の惨事に関し、事故前にNASA(米航空宇宙局)内で事故の可能性を評価したチームでのやり取りが描かれている。そこでは自由に意見を表明する機会が与えられず、たとえ問題があったとしてもコロンビア号を安全に地球に戻す手段はないという(誤った)先入観に支配されていたという。市場では株が上がると思う者がいれば、下がると思う者がいるからこそ売買が成立する。予想が一方向に流れる時におこるのがバブルである。

   本評の読者のなかには組織で働く方も少ないないだろう。同じような考えをもった人間がいる組織で事を進める方が、相互調整に余計な手間が省ける分、効率は上がる。しかしながら、同質性の高い集団は、集合知が有効に発揮される環境からほど遠いところに置かれている。中央官庁にとっては耳に痛い指摘であろう。さらに広げていえば、均質性の高い日本の市場で鍛えられる製品が、世界標準を取ることができず、ガラパゴス化の袋小路にはまることが、同根の問題であることも指摘できそうだ。

   ......評者の周りで、とある顕官にささやかなご栄転祝いを差し上げようという話が持ち上がっている...... 折よく、縁の人たちの間でメールのやり取りがはじまった。ある人が、氏は○○がなくて不便そうだったという話を出した。氏がいま使っている○○は安物の汎用品だという情報を提供してくれる人が現れる。すると、氏は、別の××氏の使っていた○○を羨ましがっていたという話をしてくれる人がいる。そして、今度は、気の利いた○○を売っている店、値段、色合い、素材まで提案してくれる人が現れる。なんとも気の利いた人である......

   この場合、「みんなの意見」はどうやら正しい答えにたどり着きそうである。なお、このやり取りでの発信者は女性ばかりであった。このことが偶然のなせる業であるのか、なにか深い理由があるのか、よくわからない。

経済官庁 Repugnant Conclusion

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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