2018年 12月 19日 (水)

ヒトと微生物との「関係回復」へ未知の分野に挑む

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■「あなたの体は9割が細菌 ~微生物の生態系が崩れはじめた」(アランナ・コリン著、河出書房新社)

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   腸内フローラを気にする方は少なくない。人間の体重の1500グラムは腸内細菌であり、100兆個の微生物が棲息している。その数、ヒトの細胞数の10倍である。皮膚もそうだ。赤ちゃんがお母さんのおなかから出てくるときに、乳酸菌をはじめ多くの微生物をまとい、母乳から微生物を受け取る。

   現代社会では、除菌や抗生物質が、ヒトに棲息する微生物の生態系を破壊し、その影響はアレルギーにとどまらず、肥満、自閉症、うつ病にも及んでいることが確認されているのである。

   腸の微生物を気遣って、ヨーグルトを食べている方もいらっしゃるのではないか。プロバイオティクスという1920年代に提起された方法である。いまでは、体の微生物の生態系を回復する手立てが、科学的にある程度解明されている。まだまだ未知な部分があるが、ヒトと微生物との関係を回復するために、最新の科学的知見を勉強することはおもしろい。著者は英国のサイエンス・ライター、進化生物学の博士号の持ち主である。

「21世紀病」と肥満を引き起こす腸内細菌

   腸内細菌が、必須ビタミンの合成、食物繊維の分解に寄与することは数十年前から知られていた。虫垂には、消化管を通過する植物に影響を受けない免疫細胞がぎっしりつまり、微生物共同体を守り、育てている。糞便の重量のうち食べ物のカスは17%に過ぎず、75%は腸内細菌なのだ。

   健康をまもる医療と公衆衛生は、予防接種、殺菌消毒、上下水道、抗生物質の四つのイノベーションでできあがった。しかし、それと並行して、1940年代から、アレルギー、1型糖尿病などの自己免疫疾患に加えて、過敏性腸症候群や肥満、自閉症が増えた。これらは「21世紀病」とも言うべき現象なのである。

   微生物はヒトの遺伝子に、エネルギーを脂肪細胞に貯蔵するよう指示を出す。痩せたヒトがエネルギーを貯蔵するときは、新しい脂肪細胞を増やして少量の脂肪を蓄えるのに、太ったヒトはすでにある脂肪細胞に大量の脂肪を蓄える。新しい脂肪細胞を造ろうにも、炎症を起こしていてできないからだ。その原因物質はリボ多糖であり、腸内細菌の仕業である。その制御方法はこれからの研究をまつことになる。

大脳のはたらきに影響を与える細菌

   微生物の影響は大脳にも及んでいる。破傷風菌、トキソプラズマがそうだ。統合失調症の患者集団におけるトキソプラズマ有病率は一般人の3倍だという。うつ病患者は血中のトリプトファン濃度が低いことが多いが、その原因も体内の細菌にある。つまり、うつ病は免疫系の機能不全の可能性がある。

   肥満を脂肪、糖分、カロリー摂取量で説明することはできない。世界でも貧しい国で知られるブルキナファソ人の食事は、6.5%が食物繊維と、イタリア人の3倍にのぼる。1940年代の英国人の食物繊維摂取量は1日およそ70グラムと現在の3倍以上だった。

   穀類、豆類、果物、野菜など植物性食品を食べると、植物の細胞壁を分解する腸内細菌が増える。微生物が食物繊維を分解すると酢酸、プロピオン酸、酪酸が出てくる。脂肪細胞や免疫細胞の受容体「GPR43」は、これを受け取って、満腹中枢を刺激し、免疫系を正常に働かせる。こうした機能による健康増進も、研究の進展が待たれている。

   微生物の研究の進展は、腸内細菌にとどまらない。海洋汚染も、河川の浄化も、土壌汚染も、化学物質の大量使用により人間が微生物に与えた影響による部分があることは間違いない。目には見えない微生物の生態系に関心を寄せる研究者の成果が、健康問題と環境問題の解決につながることを期待したい。

経済官庁 ドラえもんの妻

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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