2024年 4月 23日 (火)

ユーモアやウィットに富む国際政治学の巨人 その警句を今こそ聞きたい

日本の将来に対する鋭い危機感を持った大きな理由

   湾岸戦争以降の高坂の論考をまとめた「高坂正堯著作集 第三巻 日本存亡のとき」(都市出版 1999年4月)では、寡作だが、卓越した政治学者として知られた故佐藤誠三郎東大教授が解説を担当している。そこで、高坂が日本の将来に対する鋭い危機感を持った大きな理由について、以下のように述べる。

「国際社会と、そこでの日本の地位が大きく変化したこと、それにもかかわらず、日本がまだ貧しい小国、あるいは中進国であった時代から、日本人の意識がいっこうに変わっていないことがあげられる」

   また、高坂の論考に含まれる警句や箴言について、「欧米では、学術的論文や評論に、このような警句を含めることは珍しくない。しかし日本では、それは例外に属する。その理由は、近代日本の知識人が、欧米から学ぶことが急なあまり、自分をふくめた対象への距離感を失い、また日常の生活感情と切り離された形で、欧米産の観念のみを、抽象的なままで、しかも誤解しながら鵜呑みにしたからであろう。ユーモアやウィットは、物事を客観的に眺める距離感の感覚と、知性と生活感情とが接点を持つ場合にのみ生まれるのである。社会科学の分野でさえ、学術論文の日本語と日常生活で使われる日本語とが、多くの場合、別々の言語のように異質であり、その結果学術論文の文章がうるおいに欠けがちなのも、同じ理由による。高坂正堯は、この点でも、日本の知識人の中で例外的存在であった」と高く評価する。ここで、佐藤氏が取り上げた高坂の言葉をいくつか示す。

「人間というものは、答えがないよりは誤っていても答えを与えられることを好むのである」、「人類の歴史は過誤によって動かされることが多く、人間の営みについて合理的に考えすぎること(は)危険である」、「人間が自分のなかの危険な要素を少なくとも、過小評価する傾向がある以上、悪玉をみつけ、悪い結果を彼らのせいにすることは満足のいくことだ」

   Twitterを操り、国民の分断による統治を進める米国大統領の出現を、人生100年時代、いま存命で元気なら84歳の高坂がどのようなユーモアやウィットを持って、警句を用いて論じたか、本書をきっかけに、その早すぎる死をあらためて惜しみながら思いをはせてみたい。

経済官庁 AK

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。
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