2019年 9月 20日 (金)

より良い医療を受けるための患者の心得

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■「賢い患者」(山口育子著、岩波新書)

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   昨年夏、評者にとって人生初の入院・手術という体験をした。医師から「9割方、大丈夫」と言われても、「がんの可能性が1割あるのか」と疑心暗鬼になったり、「腹腔鏡手術なんて大したことない」と言われても、万一のことを考えてしまったりと、患者という立場に立つと、いかにうろたえるものかと思い知った。

   と同時に、わずか5日間の入院生活だったが、意外においしい入院食、思った以上に効率的な検査・治療の段取りなどプラスの発見とともに、同室の患者さんのいびきや、朝6時起床、夜9時就寝といった非日常的な生活スケジュールが結構苦痛なこと、看護師さんはじめ医療スタッフはケアよりも記録を取ることに忙殺されていることなどを新たに知った。

   誰もが、人生において何回か、「患者」となるのだろうが、これはまさに異次元の体験だと感じた次第だ。

30年間で、医師・患者関係は大きく変わった

   本書は、20代で卵巣がんを発症した著者が、病名すら説明しようとしない当時の医療現場に疑問を持つ中で、患者と医療者のより良いコミュニケーションを追究するCOML(ささえあい医療人権センター)の創設者(辻本好子氏)と出合い、その活動に参加する中で、体験したこと、学んだことが語られている。

   そこでは、20代での卵巣がんの治療体験、「賢い患者になりましょう」を合言葉に行われてきた6万件近い電話相談から見えてきたこと、医療現場の改善に向けて取り組んできた「医学教育のための模擬患者派遣」、「病院探検隊」などの活動、そして、「患者を支える」とは何かについて徹底的に考える契機となった、辻本氏の最期をサポートした体験が綴られている。

   医療が、医師にお任せだった時代が終わり、患者と医療者の協働作業となる中で、医師・患者関係が変わり、そして、患者自身が果たす役割が大きくなっていることを再確認させてくれる本だ。

   30数年前、評者が旧厚生省に入省して最初に取り組んだ仕事は、「末期医療」と「患者サービス」の改善だった。

   それまでの医療界は、治療優先の考えのもと、パターナリズム的な発想から、がんの告知は一般的ではなかったし、病院=治療の場という認識の中で、「温かい給食」、「待ち時間の短縮」といった患者サービスといった視点も乏しかった。

   他方、ちょうどその頃、医療の在り方が、それまでの量的拡大から質的充実へと重点が変わってきたことに加え、疾病構造が生活習慣病へと移りつつある中、医師・患者関係も従来の一方向的な関係ではなくなってきたという背景もあって、こうしたテーマが取り上げられるようになったのだ。

   評者の仕事は、この二つのテーマについて、有識者による検討会を立上げ、報告書をまとめることだった。

   末期医療の問題では、まず、「インフォームド・コンセント(十分に説明された上での同意)」という言葉を取り上げた。また、当時、大阪と浜松にあったホスピスに出かけて行って、その制度化を考えたり、疼痛管理のために医療用麻薬を普及させるための方策について、いろいろ議論したことを覚えている。

   患者サービスについては、待ち時間の短縮、給食の提供時間や提供方法の改善、院内表示の工夫など、全国各地で先進的な取組みを行っていた医療機関の事例を集めて、「患者サービスガイドライン」をとりまとめた。今、読み返すと、現在では当たり前となっている「適時適温給食」、「再診予約制」などが好事例として取り上げられている。

   著者が勤めるCOMLが発足したのは、ちょうどその頃(1990年)である。一方向だった医師・患者関係が変わり始め、医療は医師にお任せではなく、患者自身の理解と納得が不可欠だという意識がようやく広まり始めた頃だ。

   本書のタイトル「賢い患者」は、今日においてはあまり違和感のない言葉であるが、COMLは、創設当時から「賢い患者になりましょう」をスローガンにしてきたという。まさに時代の最先端を走っていたということになろう。

   その後の展開は、よく知られているように、がんの告知は一般的になり、1990年代後半には余命を含めてすべて伝えることが増えてきた。加えて、治療の選択肢が増え、患者の価値観も多様化する中で、患者自身の治療参加が不可欠となるケースが増え、治療は患者と医療者の協働作業になりつつある。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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