2019年 10月 14日 (月)

知られざる地方の政治・行政

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■『日本の地方政府――1700自治体の実態と課題――』(曽我謙悟著、中公新書)

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   30年前のことだが、評者は旧厚生省から出向という形で、関西の中堅都市(市役所)で2年間働いたことがある。企画部に配属されたこともあり、市政の様々な仕事に携わった。福祉は無論のこと、まちづくりや交通政策にも関わった。選挙の際には、投票所の管理や開票作業なども経験し、自治体行政の間口の広さに驚いた。

   霞ヶ関の場合には、基本的に、政策分野ごとに省庁が存在し、人事異動もその範囲で行われる。他方、自治体の場合には、市民生活に関わるあらゆる分野が、一つの組織で担われ、運営されている。一般職員の場合、建設部門⇒福祉部門⇒議会事務局など全く異なる分野に異動することもしばしばである。

   政官関係に一定の距離のある霞ヶ関と違って、市役所内で全権を握る市長が絶対的な地位にあることにも驚いた。周囲の気の使いようを見ながら、選挙で選ばれた首長の権力の大きさを感じた。他方、地方議会との関係は、国会のそれとは大きく異なっていた。大部分の会派が与党という状況であったから、与野党対立という場面はなく、多くの議員が絶対的権力者である市長との関係に腐心し、市議会での議論も当局側に個別対応を求める内容が多かった。同じ公的組織でありながら、自治体と国ではずいぶん違うなと感じたものである。

   本書は、こうした地方行政や地方政治について、その構造と実態を、政治制度、国や他の自治体との関係、地域社会・経済の3つの面から、詳しく解説した本。自治体を取り上げた類書が、様々な事例を取り上げるのに対し、本書は、戦後に生じた変化とともに、逆に変わらずにきたこと、諸外国の地方政府との異同などについて、様々なデータを使って教えてくれる。

   なお、本書では書名をはじめ「地方政府」という耳慣れない言葉が使われている。著者によれば、地方自治体や地方公共団体という言葉では「行政機構」というニュアンスが強く、選挙があり、立法活動も行われている都道府県や市町村の実情が適切に反映されていないという。住民が選挙によって政治的代表を選び、議員や行政職員らによって政策が作られていく。こうした有り様は、やはり「政府」と捉えることが適切だというのだ。

30年で大きく変わった地方政府

   30年前、3300を数えた市町村は、平成の大合併を経て、今や1700余りにまで減り、1市町村当たりの人口規模は大きくなった。と同時に、国と地方政府との関係も大きく変わった。3度の地方分権改革を通じて、それまで上下関係と捉えられていた国・地方関係が対等な立場へと転換されたのである。

   著者によれば、機関委任事務の廃止などを内容とする第一次地方分権改革(1995年~99年)、国の支出(地方交付税と国庫支出金)を削減する一方、地方固有の財源である地方税を拡充した三位一体改革(小泉政権:2002年~05年)、国の事務・権限の都道府県への移管等を内容とする第二次地方分権改革(2006年~18年)といった3度の改革により、地方の自律度は大きく高まったという。

   その結果、地方政府において圧倒的な力を持つ首長の役割も拡大した。従前ではあまり見られなかった国会議員から知事や市長への転身が増えていったことは、その証左であろう。

   平成時代を振り返れば、市町村の規模が拡大し、国との関係においても自治体の地位が向上した30年であったが、人口減少が加速化するこの先を考えると懸念は尽きない。2040年を見据えると、人口5000人を下回る市町村は全体の4分の1(406自治体)にも達する見込みである。人口5000人と言えば、病院の立地すら見込めない規模であり、自治体として自立運営を続けていくには苦労を伴う規模だ。実際、平成の大合併でも5000人以下の自治体については、魅力に乏しいためか合併が進まなかったところも多いという。

   この30年で規模や権限の面で地方政府の強化は進んだが、人口減少という社会構造の変化を考えると、道半ばと言えよう。実際、総務省からは2040年に向けて、市町村行政について、全ての所管業務を自前で行うフルセット主義から脱却し、圏域単位でカバーするといったラディカルな提案も出されている。まだまだ改革は続いていくのだ。

30年変わらない課題もある

   一口に都道府県と言っても、人口が1350万人を超える東京都から57万人の鳥取県まで多様だ。市町村に至っては、横浜市が370万を数えるのに対し、東京都の青ヶ島村は178人と差は2万倍を超える。

   著者によれば、日本の地方政府は多様性が大きいにも関わらず、画一的な制度で対応してきたことが特徴だという。

   具体的には、(1)都道府県と市町村という二層制が維持されてきた、(2)規模が違っても首長と議会の仕組みは同一、権限や財源もほぼ同じとされている、(3)地方政府間で生じる格差は中央政府からの財政移転(地方交付税)一本で対応されてきたことだ。

   著者は、「これ(画一的な制度)がどこまで維持できるのか」と述べ、今後、地方政府の多様性を踏まえた改革が必要になってくると予測している。

   本書では、長年変わらずに維持されている制度のうち、実態との間に乖離や不都合が生じている仕組みを取り上げているが、評者自身、あまり意識せずにいたことがいくつもあった。

(1) 大都市制度の不在

   本書では「人の移動」に着目し、現在の地方政府の仕組みが対応できていないことを指摘している。

   人は、生まれ育った市町村から進学や就職のために転居したり、最近では子育て(保育所の確保)のために引っ越す事例すら生じている。人口減少が進みつつある現在でも年間500万人が引っ越しているというのだ。

   また、都市部では自宅と勤務地や通学地が異なる場合も多い。このため3大都市圏などでは、中心地の昼間人口が夜間人口を大きく上回るところも生じている。昼間人口の多い自治体では、住民税収入が得られないまま、追加的な行政サービスの提供が求められることになるが、現在の地方制度では、東京23区を除き、こうした負担調整を行う仕組みは存在しない。

   この大都市問題を提起したのが大阪都構想であり、2015年の住民投票で1度否決されたが、今年の統一地方選挙において大阪維新の会が勝利したことにより再び機運が盛り上がりつつある。この新たな都構想は、議会と住民投票の両方で過半数を得る必要があり、ハードルは高いが、著者は改革の必要性を認める立場から、期待感をにじませつつ、以下のように語っている。

「大都市における基礎自治体のあり方と、都市間競争に置かれる都市の経営をどのような形で担っていくのか、それを国任せではなく地方政府と住民の手で、どのように実現していくのかが問われている」

(2) 政党制になじまない地方の選挙制度

   今年の統一地方選挙でも目立ったように、首長選挙の場合、自治体全域から幅広い支持を得る必要があることから、「相乗り」や「無党派」が多い。国政選挙と異なり、首長自身、政党色が薄い方が選挙対策上有利とすら言える。

   地方議員の選挙でも、理由は異なるものの政党化は進んでいない。特に市町村議会では、自治体全域から全議員が選ばれる大選挙区制が基本であることから、新規参入が容易であり、候補者は政党に所属するインセンティブが乏しい。

   本書では、西宮市議会の事例が取り上げられているが、41人もの議員が市全域から選ばれることから、1800票ほどで当選できる。政党として戦略的に対応している公明党や共産党は、票を候補者ごとに分散することで効率的に当選者を確保しているが、支持基盤が明確ではない自民党や維新の会は、票の分散といった戦略はとりづらく、特定の候補者が過大な票を獲得する一方で「死票」を生じさせている。

   政党制があまり機能しない地方議会にあっては、結果として、多数派が形成されず行政のチェック機能が発揮できなかったり、議員が個別利益を追求する状況を生むことにつながっているという。過去40年の都道府県議会の議員提出の条例案は年間平均1.27本、議員報酬などの議会運営関係を除く政策的な条例案に限ってみれば何と0.17本にとどまるというのだ。

   著者は、地方分権改革が進んだ今日においてこそ、地方議会の政党制を確立することが首長と議会の関係を健全化するためにも必要だと指摘している。そのためには、議員定数や選挙区制のあり方など、選挙制度の在り方が問われることにもなろう。

「民主主義の学校」として再構築

   地方行政や地方政治は、住民にとって身近であるとともに、長年の積み重ねの上に成り立っているものであり、その改革は容易ではない。しかし、この30年の地方分権改革の進展、さらに、今後、加速化する人口減少などの社会構造の変化を考えれば、見直すべきことは多い。

   実際、地域事情が大きく異なるほか、人口規模も全く違う中で、現在の画一的な仕組みをそのまま適用することは難しくなっている。大都市制度、選挙制度や地方議会のあり方など、これまで手付かずであったテーマについても、見直しが必要であろう。

   それと同時に、地方政府が「民主主義の学校」である以上、地方政府という場で住民自身が民主主義を学び、経験を積んでいくことが何より大切だろう。地方政府は住民と切り離された存在ではなく、住民から構成される存在として、認識され、機能するように、形とともに実質を変えていく作業が必要だ。

   著者は、将来的には税の決定という困難な仕事を自治体自身が引き受けるべきとしている。課税自主権を持つに至るには、長い道程がありそうだが、その実現には、こうした地方政府の変革が不可欠であろう。

   そして何より、地方政府の変革は国政のあり方に大きな影響を与える。その意味でも、これからの地方政府の展開は日本の政治・行政にとって大きな意味を持つと考える。

JOJO(厚生労働省)

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