「月虹」、紐のオブジェ
向き合った日韓を表現

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固くもつれた紐が少しはやわらかくなるかも

   Baeは、ずっと、紐を通じていろいろな関係性を表現する作品を多く手掛けてきた。冒頭に紹介した紐のオブジェは、植民地時代の敵対と共存の歴史や、戦後、日韓に流れた反発や友好の感情だけでなく、かつて大田に住んでいた日本人や韓国人の思い出の反映でもあるし、大田の取材を通じて湧き上がったBae自身の混乱の反映でもある。

   「日韓関係は戦後、鉄道の線路のように、近づくことも離れることもないまま平行線をたどってきました。同じ平行線でも、日韓の人々が背を向け続けていたら、次につながらない。でも向き合った状態になれば、固くもつれた紐が少しはやわらかくなるかもしれない。このオブジェがそれを考えるきっかけになればと思っています」

   小学校での展示会は、「KG+SELECT 2019」というアートフェスティバルの中で行われた。Baeによれば、公益財団法人韓昌祐・哲文化財団の助成金で昨年1月に、JARFO京都画廊で開催した展覧会「月虹 Moon-bow」と立命館大学創思館カンファレンスホールで開催したシンポジウム「記録されぬ人々」が評価され、今回のフェスティバルの参加につながったという。今回の大会カタログの表紙を、Baeの作品が飾っている。

   展覧会の教室の窓には、ウバメガシという樫の一種の写真がコラージュされている。これは日本人が木炭の材料として、戦前に植えていた木で、日本人が住んでいた目印にもなっている。いまも大田だけでなく、韓国各地にウバメガシが群生している場所がある。

   教室には、懐かしい音がずっと響いていた。聞けば、胎児の脈の音と胎児が聞く母親の心音を合成したものだという。その音の発信元は、三つの紐でつくった、もう一つのオブジェの中。心臓のように収縮と拡張を繰り返していた。その音は、大田への懐かしさを甦(よみがえ)らせるだけでなく、日韓の新しい時代を生み出す鼓動にも聞こえる。(敬称略)

(ノンフィクションライター 西所 正道)

公益財団法人韓昌祐・哲文化財団のプロフィール

1990年、日本と韓国の将来を見据え、日韓の友好関係を促進する目的で(株)マルハン代表取締役会長の韓昌祐(ハンチャンウ)氏が前身の(財)韓国文化研究振興財団を設立、理事長に就任した。その後、助成対象分野を広げるために2005年に(財)韓哲(ハンテツ)文化財団に名称を変更。2012年、内閣府から公益財団法人の認定をうけ、公益財団法人韓昌祐・哲(ハンチャンウ・テツ)文化財団に移行した。

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