2019年 10月 22日 (火)

建築に憧れて 知花くららさんが突き進む前向き「よくばり」人生

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   「男の隠れ家」9月号の「31文字の日々是好日」で、マルチタレントの知花くららさんが建築への憧れをつづっている。那覇市生まれの37歳。モデルの枠に収まらず、国連世界食糧計画(WFP)の日本大使を務め、短歌もたしなむ。身辺雑記が中心の連載だが、盛りだくさんの生き方が文章にも活気を与えるのか、心地よい読後感を味わえる。

「この春、とある芸術大学に入学した。ずっと憧れていた建築を学ぶためだ」

   この冒頭を読んで、また新しいことに挑むのかと驚いた。通信制だが、月に二回ほど週末のスクーリング(受講生を大学に集めての共同学習)がある。製図の実習では、ケント紙にミリ単位の細かさで線を引く訓練を重ねるらしい。

「沖縄的な〈てーげー〉で大雑把なところがある私。なかなかきれいな線が引けない。周りはいとも簡単そうに課題をクリアしていくのに、私は亀の歩みだ」

   線引き作業の前段だろうか、紙上に0.5ミリの点を打ちながら知花さんがふと思い浮かべたのは、アフリカの埃っぽい風だった。国連の仕事で訪れた時の体験だろう。

「大教室の青白い蛍光灯の灯り、滑らかで真っ白なケント紙、線を引く静かな音。それらに対比するように、アフリカの強烈な陽射し、土まみれのお母さんの乾いた素足、アフリカンドラムの響く音、そんなこと一つひとつを懐かしく思い出している自分がいて」

   40歳を前にして全く違う世界に挑んでいることを実感する瞬間...「向いてないのかも、なんて弱音がムズムズと顔を出す。心が折れそうになった」そうだ。

  • 「なかなかきれいな線が引けない」と知花さん
    「なかなかきれいな線が引けない」と知花さん

アラフォーの学び

   そんな時、尊敬する建築士から激励のメールが届いた。

   〈「建築的な思考」を学んでください。世界の見方が全く変わりますよ〉とあった。

「何だか泣けてきた。私が学ぶ意味はそこなのだと思えた。世界をもっと知りたくて始めたこの学び。今、一生懸命勉強すれば、今まで旅してきた美しい世界が、またきっと違って見える」

   たとえば住居。アフリカで見た牛糞壁の家、マッチ箱みたいな難民キャンプ、沖縄の祖父の生家...それらに建築家の目を向ければ「もっと生き生きとして見えるに違いない」

「そこで私ができることも新たに生まれるかもしれない。そう考えればワクワクしてきた。せっかく憧れの学問に挑戦しているのだし、今はとにかく楽しもう。アラフォーの学び。できるところまで踏ん張ってみようと思う」

   なかなかのポジティブ思考、そして「回復」の早さである。

   2017年の角川短歌賞で佳作となった筆者らしく、連載には毎回一首が添えられる。

〈ケント紙に一ミリの半分を書きつけて アフリカの砂埃を思ふ〉

   なお、初の歌集「はじまりは、恋」が6月、角川書店から刊行された。

よくばりな人生

   実は私も、大学に入るまでは建築家をめざしていた。工学部の授業で何百本も線を引いたし、団地やインターチェンジの設計までやったが、落ちこぼれた。

   だから「建築的な思考」のなんたるかは分からない。たぶん、専門的な技術や経験より、空間クリエーターならではの考え方を習得してほしい、というアドバイスだろう。彼女が建築士の資格を目ざすか否かはさておき、アラフォーへの激励としては的を射ている。形ではなく精神から入ろうと言われれば、私だっていくらか気楽になったはずだ。

   知花さんは、フランス関係のレセプションで何度かお見かけした。人気モデルとして活躍されているころで、長身という要素を除いても目立つ存在だった。その立ち居振る舞い、漏れ聞こえるやりとりから、この人はこれで終わるまいと思ったものだ。

   モデルで女優、歌人でエッセイスト、もしかしたら建築家。もはや見上げるしかない。私の直感をはるかに超える高層建築である。ある意味「よくばり」な人生ともいえる。

   ちなみに2017年に結婚、今秋には母になる予定という。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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