2020年 2月 22日 (土)

「ナウシカ」知識人たちはこう評価した

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■『「超」整理日誌』(著・野口悠紀雄 ダイヤモンド社)
■『風の谷のナウシカ』(作・宮崎駿 徳間書店)

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   すでに昨年の話であるが、100番目の記念すべきNHK朝ドラは、広瀬すずさん主演のアニメーターの成長の話「なつぞら」であった。スピッツの素敵な主題歌「優しいあの子」、北海道十勝の雄大な自然、そして日本のアニメの黎明期を活写し、日本のアニメーションを作り上げてきた方々へのオマージュ(敬意)に満ちていた。このドラマにもモデルらしき人物が登場していたが、我々の世代は、高畑勲、宮崎駿の両氏のアニメーションとともに、成長してきたことは間違いない。このうち、宮崎駿氏の監督作品といえる、NHKで放映された「未来少年コナン」(1978年)、映画「ルパン三世 カリオストロの城」(1979年)、映画「風の谷のナウシカ」(1984年)、そして「天空の城ラピュタ」(1986年)からのジブリの一連のアニメ映画は、どれも公開時に見た、忘れがたい作品だ。

米教授「最も研究が進んでいない作品」

   「知の巨人」立花隆氏は、文春ジブリ文庫・ジブリの教科書の第1巻目の「風の谷のナウシカ」(2013年)の巻頭によせた「前人未踏の巨大世界、ナウシカ」で、映画の原作となるコミック(漫画版「ナウシカ」)を激賞している。漫画版「ナウシカ」は、『アニメージュ』1982年2月号から連載が始まり、映画が終わったのちも中断をはさみながら連載は続き、「風の谷のナウシカ」の最終巻(第7巻)のコミックがでたのは、1995年になってからのことであった。1995年は、阪神・淡路大震災、オウム真理教の地下鉄サリン事件があった、日本の転換点の年である。評者もコミックが刊行されるたびに購読していた。

   週刊文春(昨年12月26日号)の立花氏の「私の読書日記」では、スーザン・ネイビア著「ミヤザキ・ワールドー宮崎駿の闇と光」(早川書房)を紹介している。この本を読むと、立花氏の熱い思い入れとは相反して、スーザン・米タフツ大教授が一番に押しているのは「千と千尋の神隠し」(2001年)のようだ。漫画版「ナウシカ」については、「極めて高い人気にもかかわらず、・・おそらく、宮崎の全業績の中で最も研究が進んでいない作品である」と指摘する(第10章 救世主(メシア)から巫女(シャーマン)へ 「闇の中の光」を求める漫画版『風の谷のナウシカ』)。その理由について、「物語の壮大な構想、複雑なプロット、繰り返し起きる場面転換、そして無数のキャラクターたちに腰が引けてしまう」ということをまず挙げる。また、宮崎氏の作風が根本的に楽天的で明るいものだとのこれまでの評価と異質であることや、描かれるナウシカが映画版よりダークであることも指摘する。「とは言え、作品自体は、宇宙における人類の位置について従来の考えを覆すような世界観を提示し、大災厄後の未来社会を記憶に残るイメージを用いて描写したことが評価され、概して名作の呼び声が高い」という。

   最近、民族学者の赤坂憲雄氏が、「ナウシカ考 風の谷の黙示録」(岩波書店 2019年11月)を世に問うている。漫画版「ナウシカ」の完結に際して、産経新聞1995年2月4日夕刊紙面に「火と大地、そして小さな母の物語」と題したエッセイを書いたことを「はじめに」で回想している。そして、「時代のほうが喘ぎながら、その黙示録的な世界の見えにくい渚に漂着しようとしている、とでもいうべきか」という。

ナウシカの行動に納得しなかった野口悠紀雄

   経済学者の野口悠紀雄氏の「『超』整理日誌」(ダイヤモンド社 1996年、新潮文庫 1999年 いずれも版元品切)に収録された「『風の谷のナウシカ』に関する主観的一考察」は、スーザン教授の本にも、赤坂氏の本にも、参考文献としても出てこないが、とても秀逸だと思う。もとは、週刊エコノミスト誌(毎日新聞社)1995年5月9日号~23日号に掲載されたものだ。野口氏は、漫画版「ナウシカ」が、ワーグナーの楽劇「ニーベルンゲンの指環」、J・R・R・トールキンの「指環物語」に続く「第三の指輪物語」であるとの仮説をたてて見事な考察を行う。そして、漫画版「ナウシカ」は、「言語イデオロギー過剰」ではあるが、ファンタジーとしての条件を備えた名作だという。ただし、ナウシカがとった行動(人類の救済計画を拒否したこと)について、野口氏は納得していない。ナウシカに匹敵する登場人物であるクシャナを高く評価し、物語の途中で、世界再建の指導者という人類的使命に目覚めて、実務家として立ち現れたことが、漫画版「ナウシカ」を大人の鑑賞に堪えるものにしたとする。

   野口氏は、当時の文庫版あとがきで、この本で「終末は到来しないこと、多くの人々にとっての日常は退屈な日々の連続であること、そして人類はそうしたなかで21世紀を迎えるであろうことを強調した」という。3.11を経験した我々は、この見解を無条件に受け入れることは難しいが、野口氏がこのエッセイの最後で指摘する「必要なのは、終末が訪れぬ世界、いつになっても終わらぬ世界において、人々を壮大なイメージで奮い立たせるのでなく、実務のレベルで地道に問題を処理することだ」との言葉は、いまの時代にあっても実務家として改めてかみしめるべきものだと思う。

経済官庁 AK

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