2021年 8月 6日 (金)

天然痘から奇跡的に回復した青年モーツァルト 活気ある「交響曲 第7番」

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ドイツ風の4楽章構成の堂々たる作品

   10月末にはオロモウツについたものの、残念ながらというか、心配されていたとおり、まずは少年ヴォルフガングが、そして次に姉ナンネルが、天然痘にかかってしまいました。過酷な旅を子どもたちにさせるレオポルドは、薬草や滋養のあるスープのレシピなどの知識もあり、二人の子を懸命に看病したはずですが、旅先でもあり、医療も未発達な時代、特にヴォルフガング少年は危険な状態になります。熱に浮かされうわ言を言うようになり、目が一時的に見えなくなった、と記されていますから、まさに命の危険があったといえましょう。「神に祈るしかない」というモーツアルト一家の当時の気分は、治療薬もワクチンもない新型ウイルスに悩まされている現代の我々の気持ちと通じるものがあるかもしれません。

   ちなみに、この時のモラヴィア地方は昆虫とネズミの大発生に悩まされていた、という記録が残っています。コロナ禍の現在、アフリカから中国にかけてバッタの大群が移動している、というニュースと不思議に重なります。

   今回の新型ウイルスも全世界で「本人の免疫頼み」の状態ですが、この時まだまだ若かったモーツァルトの免疫力は、病気を上回ることができました。天然痘の痘瘡が剥がれるようになってきてから熱も下がり、彼は奇跡的に回復したのです。

   12月下旬にはすっかり回復して、オロモウツを出発し、帰路もブルーノに立ち寄って演奏会を開き(おそらく心細くなってきた旅費を稼ぐためだったかもしれません)、そこで年を越してから、翌年1月10日、吹雪のウィーンに一家は戻ります。再び、「売り込み活動」を再開しなければなりません。

   ウィーンで披露されたのが、少年モーツァルトの「交響曲 第7番 ニ長調 Kv.45」でした。完成されたのはウィーンですが、おそらく避難旅行中から作曲されていたはずの作品です。演奏時間は全体でも12分ほどという可愛らしい交響曲ですが、メヌエットの第3楽章を持つ、ドイツ風の4楽章構成の堂々たる作品で、モーツアルトの交響曲としては初めてトランペットとティンパニが使われています。

   天然痘という疫病から命からがら生還し、改めて帝都ウィーンで自分の才能を発揮していこうとした少年モーツァルトの、生命力あふれる活気が感じられる曲です。まだまだ修行中の初期作品のため、演奏機会は後期の交響曲に比べると少ないですが、モーツァルトの早熟の天才ぶりと、青雲の志というべき、溢れ出るみずみずしさが感じられる素敵な曲です。

   モーツァルト一家のこのあとの「売り込み作戦」ですが、天然痘の大流行という災難に直面し、さすがのハプスブルク宮廷も経済的に疲弊。音楽どころではなくなりつつあり、また、宮廷はまだまだ「お雇い外国人」ことイタリア人勢力が強かったため、ドイツ語が母国語のモーツァルト一家には逆風が吹いたり・・・と、「命は助かったけれど、経済的な苦難」が降りかかるのですが、その話は、また別に機会に取り上げましょう。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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