2020年 5月 29日 (金)

混沌こそ台湾の味 東山彰良さんが語る故郷の「ぶっかけ飯」その他

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   CREA 5月号の大特集「おいしい、台湾。」に、台湾生まれの東山彰良さんが「混沌のうま味」と題したエッセイを寄せている。福岡県に住む作家は51歳。中国留学などを経て日本の文壇にデビューし、2015年に直木賞を受けた。かの地の食を語るには適任だ。

「あくまで私見だが、台湾の食の魅力をひと言で語るなら、それは『混沌』である」

   両親が学んでいた日本に5歳で移り住んだ筆者、自国の食文化に初めて混沌を感じたのは小学1年時の「歓迎遠足」だ。新入生の歓迎行事だろう。広島での話と思われる。

「試練は昼食時に訪れた。そう、日台の弁当事情の違いを目の当たりにして、愕然としたのである。母が用意してくれた私の弁当は、台湾ではポピュラーなアルマイトの弁当箱に入っていた。中身も台湾ではあたりまえの、あえて名付けるなら『ぶっかけ弁当』だった」

   弁当箱に白飯を敷き詰め、前夜の残り物をかけただけ。「見た目や栄養よりも母の手間のことを第一に考えたものだった」。秩序と可愛らしさを競う他の子の弁当...おかずの交換に興じる級友たちを後目に、異国から来た少年は惨めな思いで自分のをかき込んだ。

   三つ子の魂なんとやらで、東山さんは今でも、小皿に意匠を凝らした和食より台湾の「混沌メシ」に惹かれるそうだ。

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行儀のよさも併せ呑む

「昔とくらべれば、台湾の食文化もずいぶんお行儀がよくなったと思う」

   台湾の原宿と言われる西門町界隈には、日本の終戦直後の闇市のような屋台がたくさんあった。帰省するたび、東山さんは行きつけの屋台でヨウ魚羹(ヨウユウゲン=イカのすり身に衣をつけ、とろみスープで煮込んだ料理)を、たっぷりの香菜、唐辛子と共に食した。

   同じ台北の士林夜市では、中華鍋からガンガン上がる火柱を眺めながら、牡蛎のオムレツや大餅包小餅(ダアビンバオシャオビン=揚げパイのクレープ包み)をぱくついた。

「それがいまやどうだ。どこもかしこも小ぎれいになってしまった...が、心配することなかれ。小ぎれいになったとはいえ、そこはやっぱり台湾である。ちょっと観光コースから外れる勇気さえあれば、いまでも簡単に混沌メシにありつける」

   新たに工夫された食べ物、食べ方が日夜しのぎを削り、混沌の度合いはむしろ深まっているかもしれないという。「真の混沌とは、お行儀のよさをも併せ呑む懐の深さ...近ごろ台北で流行りの一人鍋なども、混沌の進化系と見なせなくもない」

   台湾では「お行儀のいい」日本食が定着し、逆に日本では混沌メシが広がりつつあるそうだ。東山さんの息子が通う日本の大学にも、台湾料理のキッチンカーが現れ、ソウルフードの魯肉飯(ルーロウファン=煮込み豚肉かけ飯)を提供しているとか。

   東山さんも負けじと、混沌デザートを創作して悦に入っている。台湾スイーツの定番、愛玉(アイユイ=木の実由来のゼリーをレモン汁に浮かべたもの)に炭酸水とジン、またはウォッカを加えた一品だ。愛玉は、輸入食材店に缶詰が置いてあるらしい。

「これに当節流行りのタピオカなどをトッピングすれば、混沌度合いは増し増しである。細かいことは言いっこなし。美味くて楽しけりゃ、それが混沌メシだ」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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