2021年 3月 2日 (火)

「境界領域マネジメント」を定義

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■『自治体行政と地域コミュニテイの関係性の変容と再構築』(役重眞喜子 東信堂)

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   農林水産省のキャリア官僚が岩手県東和町に移住して平成大合併を経験した。市町村行政と、集落あるいは域内のより広域の自治組織との関係が変わってしまう。その違和感から研究を志し本書が生まれた。市町村行政の統治と集落コミュニティの共同との関係性を過去に訪ね未来に問う本格的な学術書である。

   明治維新以来、数多の公務員が市町村、都道府県、中央省庁と異なる立ち位置から過疎問題に関わってきた。あるものは都会やグローバル社会との接続を試み、あるものは地場産業や六次産業づくりを先導した。限界集落の自治振興センターで農山漁村の若者のいない集落の将来に腐心してきたものもいる。

   今では限界集落と呼ばれる場所は、農業集落であれ山村漁村であれ世帯では手に余る数多くの仕事を自治体行政に委ねずに集落の仕事として黙々と果たしてきた。象徴的には白川郷の屋根の茅葺きだ。集落で誰かがやらねばならない仕事があれば自分がそれをやるという独立心と気概をもつ大人の集まりだ。集落が小学校区、さらには合併前の町村区域と広域化する程、集落の構成員と市町村職員との距離は遠くなり、地域コミュニティと自治体行政とは分離していく。それでいいのか。自治体合併の経緯とこの二十年以上の住民の生活実感を魂で感じてきた筆者の分析と提言は、洞察に満ち胸に響く。

コミュニティ活動と市町村行政

   本書の学術的貢献は「境界領域マネジメント」を「自治体行政と住民参加組織との境界においてその分担のあり方を最適に調整・形成するための対話の仕組みやプロセスの体系である」と定義したことではないか。

   コミュニティには、農村の集落のように場所を境界とする地域コミュニティもあれば、子育て、在日外国人、LGBTのような活動コミュニティもある。コミュニティが参加者の実質的な合意を醸成できているときは、行政に頼らずに行動できることはするし、市町村行政に実行に値する政策を提言する。提言が行政任せの声高な要求になれば、行政とコミュニティとの仲間意識は分離して住民自治そのものが劣化していく。都市住民が、市役所よりコンビニの方が身近で役にたつと思ってしまう現在は地方自治の危機だろう。

   自治体職員が集落や活動団体の暮らしの実感や意見に寄り添えるだけの職務と心の余裕がなければいけない。バス停に積もった雪を前に、翌朝登校する児童のことを思い嘆息する親たちと建設課の職員。民生委員のなり手を探して一軒一軒夕暮れの道を共に歩く町内会長と福祉課の職員。そうした活動ができるほどに職員の心身の余裕を作り出すのは私たち自身でなければならない。職員は我々のため人生を賭けて働いているのだから。

異質どうしの対話

   花巻市に合併した一市三町を舞台にする本書は、限界集落を抱える自治体行政に多くの示唆を与える。同時に、地元の行政よりも勤め先や子供の教育、親の介護に関心が向きがちな都市住民に強い気づきを与えてくれる。都会を離れて自然と人情豊かな地域への移住希望者にも。

   田舎の集落では最後の一人がうんというまで話し合う「総意」を合意形成の旨とする。各自の経済的負担を伴う合意ならなおさらだ。株式会社の意思決定や実質的合意を他人に委ねがちな毎日を過ごしているとまどろっこしいだろう。これに対して、最初の一人で発進する「創意」は都会の長所かもしれない。一人一人が思いついた途端に行動したら場所で構成員が決まる地域コミュニティは崩壊する。スピードが何よりも大切という価値観を捨てて、対話と相互理解を通じて、自分の意思が集落の運営に反映されているという信頼感を育むことが住民自治の基礎となる。

   都会と田舎とを問わず、勤め先の組織のありようにも関わる哲学的なメッセージを本書の結びに編み出してくれた筆者の思いに、感謝と敬意を表したい。

ドラえもんの妻

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