2024年 4月 19日 (金)

ヴェルディの10作目のオペラは敬愛するシェイクスピアを題材にした

人気店や企業から非公開の招待状をもらおう!レポハピ会員登録

   伊の19世紀を代表するオペラ作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディは、29歳のときに書いた「ナブッコ」の大成功によって、すでにイタリア・オペラの人気の中心にいました。アルプスの北、つまりオーストリアやドイツやフランスでは交響曲・室内楽・ピアノ作品などの器楽も人気でしたが、南の国イタリアでは、1にオペラ2にオペラ、とにかくオペラが人々の娯楽・音楽の中心でした。大きな街には必ず複数のオペラ劇場があり、劇場内にはカフェやレストランやカジノもあり、人々は、週に4、5回もオペラに通った・・といわれているぐらい、重要な「街の社交の場」でもあったのです。

  • マクベスを書いた頃の、若きヴェルディの肖像
    マクベスを書いた頃の、若きヴェルディの肖像
  • マクベスを書いた頃の、若きヴェルディの肖像

「大衆を喜ばせる」工夫

   そんな状況で人気を維持するためには、「大衆を喜ばせる」工夫も必要でした。ヴェルディも、初期作品は、そういった傾向のものが多かったのです。すなわち、歌手たちの名人芸的歌唱を披露させるためにストーリーの流れと関係ないところにアリアや合唱を入れたり、典型的なヒーローやわかりやすい悪役が登場し、物語はシンプルな勧善懲悪だったり、お涙頂戴の自己犠牲だったり・・といわば「ご都合主義的」なストーリーを採用したのです。

   人気作曲家ゆえの激務がたたり、体調を崩したヴェルディが温泉で療養していた1846年夏、フィレンツェのペルゴラ劇場からオペラの注文を受けます。ヴェルディは、シェイクスピアの「マクベス」を題材に選びました。彼がもっとも敬愛する劇作家シェイクスピア、その作品の中でも最も簡潔で、舞台向きで、演劇的な悲劇として「マクベス」を高く評価していたヴェルディは、同時期に依頼を受けていた他のオペラを一旦置いてまで、「マクベス」に打ち込むのです。

20世紀になって復活

   台本作者のフランチェスコ・マリア・ピアーヴェを叱咤激励し、台本が出来上がるそばから作曲していったヴェルディでしたが、シェイクスピアの偉大なる作品を、それにふさわしいオペラにするのだ、という気概が空回りし、あまり制作状況は順調ではありませんでした。衣装はロンドンから取り寄せてヴェネツィアのデザイナーにデザインを依頼したり、信頼するバリトン歌手に稽古の段階から細かい指示を与えたり・・とヴェルディは文字通り心血を注いで「マクベス」の完成に邁進するのですが、作品が有名かつ偉大すぎて、ひょっとしたら33歳のヴェルディには荷が重かったのかもしれません。

   というのも、これは、初めてヴェルディが「大衆受けを狙う波乱万丈の血湧き肉躍る物語」から、「同じドラマではあるが、精神的な葛藤や人間の内面を描いた物語」にフォーカスをかえて作曲したものだったために、初演こそ評判となったものの、次第に単純なエンターテイメントを求めるイタリアの聴衆には飽きられてしまったのです。ヴェルディ自身、「このオペラは大成功するか、見向きもされないか、どちらかだ」と予言していました。

   本国イタリアでは、半世紀以上、人気のないオペラとなってしまった「マクベス」ですが、20世紀に入って、ドイツで復活上演が行われると、その美しく、人間心理を細かく表現したアリアや合唱に改めて注目が集まり、現在ではヴェルディの傑作の一つとして、人気演目となっています。

   巨匠シェイクスピア作品に挑んだ若きヴェルディは、これ以後、中期の充実した作品群を量産していくことになります。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中
カス丸

ジェイキャストのマスコットキャラクター

情報を活かす・問題を解き明かす・読者を動かすの3つの「かす」が由来。企業のPRやニュースの取材・編集を行っている。出張取材依頼、大歓迎!