2021年 8月 6日 (金)

コロナの都心にて 中島京子さんはホテル2泊で食にこだわった

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   「ゆうゆう」5月号の「羊のところへはもどれない」で、作家の中島京子さんがコロナ下の都心でホテルに滞在した2泊3日を詳述している。

   中島さんは昨年5月から、初の新聞小説に挑戦中。本作では明記されていないが、読売夕刊の「やさしい猫」だろう。その連載が「佳境で、煮詰まってしんどいので、気分を変えるためにカンヅメになることにした」という。作家のカンヅメとは、連載の締め切りに遅れぬよう、作家を出版社の社屋かホテルや旅館で「管理下」に置くことをいう。たいてい担当編集者が隣室か玄関で入稿を待つのだが、中島さんの場合「自主隔離」らしい。

「場所は赤坂。永田町に近いエリアで、東京に住んでいるわたしでも、ふだんはあまり行かない場所だ...文学賞の授賞パーティーでもあれば、出かけていく必然性もあるけれども、文学業界が利用するホテルは銀座あたりが多いのだ」

   そのホテルは場所柄、政治家の利用が多い。中島さんも駐車場からフロントに向かう通路で、「〇〇先生が選挙のときに...」といった携帯の会話を耳にしたそうだ。

「インターネット環境もいいし、部屋にはなかなか座り心地のいいチェアもあって、狙い通り、執筆はサクサク進む。進んだはいいが、ハッと気がつくと、もう八時を過ぎている。緊急事態宣言下(二度目の=冨永注)の東京なので、八時には飲食店が閉まってしまうのだ」

   中島さんはルームサービスを頼んだ。ニース風サラダに、ステーキハウスのハンバーガー。「おいしい。ちょっとぜいたくな巣ごもりって感じ。赤坂や六本木が近いのに、飲みにいくという選択肢はないから、まあ、ほんとにカンヅメ向きの状況だ」

  • 三度目の緊急事態宣言が出て、連休中も閑散とした六本木~赤坂かいわい=冨永写す
    三度目の緊急事態宣言が出て、連休中も閑散とした六本木~赤坂かいわい=冨永写す
  • 三度目の緊急事態宣言が出て、連休中も閑散とした六本木~赤坂かいわい=冨永写す

怪我の功名?

   翌朝、バイキング形式の朝食を済ませて「煮詰まりすぎてもいかん」と思った筆者は、西川美和監督の映画「すばらしき世界」を観に行った。ホテルに戻ってまた執筆。予定の枚数を書き終え、今夜こそ外食だと、午後6時前にホテルを出た。

   訪れたのはトルコ料理の店。8時終了なので、中島さんのほかに客はなく、メニューも昼夜共通のセットだけだったが、ヨーグルト入りチキンスープ、チキンケバブ、キョフテ(トルコ風ハンバーグ)、サラダにバターライス。どれも美味しく、店の内装や音楽、トルコ人スタッフのお陰で外国旅行の気分を味わえた、という。

「でも、わたしがいる間、一人も来客はない。おいしいのに。コロナ後も生き残ってほしいから、テイクアウトランチでも買いに、また来ようかと思う」

   中島さんは最終日の午前中、つまりチェックアウト後と思われるが、「予約なしではほとんど買えないというオーストリア銘菓」と、「すぐ完売してしまうので幻とも言われる老舗豆大福」を苦もなく買えたそうだ。「怪我の功名じゃなくて、なんというべきなのかわからないけれども...幸せな気持ちで帰路についた」

   コロナによる外出自粛やリモート勤務の普及で、都心の人口密度は減じ、景色は一変した。そこで過ごしてみれば、思わぬ発見もある。

「望ましいのは、こんなに容易には人気商品が買えないような東京の活気が、この街に戻ってくることなのだろうと、お茶を淹れながら考えているところである」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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