2022年 8月 10日 (水)

時は金なり 齋藤孝さんは達人らしくストップウオッチを手放さない

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   プレジデント(3月18日号)の「齋藤孝の 人生がうまくいく古典の名言」で、明治大学教授の齋藤さんが、限られた時間の使い方をテーマに持論を展開している。

   古今東西の名著や金言からビジネスのヒントを探る連載。今回は帝政ローマ時代の哲学者、セネカの『生の短さについて』(岩波文庫)が参考書である。

「現代人は『忙しい』が口ぐせになっています...『もっと自分の時間があればいいのに』と思うこともあるでしょう...彼はズバリと指摘します」
〈われわれにはわずかな時間しかないのではなく、多くの時間を浪費するのである。人間の生は、全体を立派に活用すれば、十分に長く、偉大なことを完遂できるよう潤沢に与えられている〉

   ここまで容赦なく言われては立つ瀬がないが、がまんして賢人の論を聞こう。

   齋藤さんによれば、セネカは人間を「忙殺の人」と「閑暇(かんか)の人」に分ける。現代社会でいえば、例えばSNSに振り回されるのが前者、仕事に趣味にと人生を謳歌するのが後者だろうか。大学で教えながら著書多数、テレビ出演もこなし、映画やスポーツ観賞も好きという齋藤さん、自身を遠慮がちに「閑暇の人」に分類する。

   忙しいはずなのに、なぜ自由時間が生まれるのか。秘訣は常に手元に置いているストップウオッチらしい。20分の打ち合わせと決めたら、秒単位で計りながら話を進めるそうだ。

「時間の密度が高まり、仕事がどんどん片付くのでお勧めです」

   時間に関しては自他に等しく厳しい。テレビ局から「番組の趣旨をご説明したいので1時間いただけますか」と問われれば、企画書をメールで送ってもらうという。

「自分の1時間を相手に貸し与える必要はなくなるし、相手に1時間を浪費させることもありません」
  • ストップウオッチを手元に置くと
    ストップウオッチを手元に置くと
  • ストップウオッチを手元に置くと

知的活動でイキイキ

   筆者は次に、多くの人が気軽に時間を貸し借りしてしまう理由を自問自答する。

「もし時間がお金の形をしていたら、そう簡単に貸してくれとは言えないし、頼まれた側も断るでしょう...お金は浪費してもまた稼ぐことができるかもしれませんが、過ぎ去った時間はもう戻りません」

   時間の価値に気づかず、あるいは強く意識しないまま浪費を続け、ただ老いていく。そんな人に齋藤さんは呼びかける。「自分の時間の使い方を見直して、閑暇の人を目指してはいかがでしょうか」。セネカは〈英知のために時間を使う人だけが閑暇の人である〉とも書いている。筆者によれば「知の世界で時間を過ごすことが、人間にとって一番の幸せだ」というのがセネカの考えである。

「俳句を作ったり、楽器を演奏したり、盆栽を育てたりと、興味のあることに能動的に取り組み、創造性を発揮することも立派な知的活動と言えます。みずからアクティブに活動できる人は、何歳になってもイキイキとした毎日が送れるはずです」

「閑暇の人」になろう

   テレビで拝見する柔和な笑顔と、ストップウオッチを握りしめる「時間の鬼」との落差。正直、それが本作でいちばん印象に残った部分だ。人は見かけによらない。

   時間の管理、有効活用は自己啓発本の一大テーマである。齋藤さんは2000年前の哲学者を引用して、みなさんも「閑暇の人」になろうとビジネスパーソンを叱咤激励する。仕事に遊びにメリハリのある、彫りの深い日常を過ごしましょうよと。

   普通の人は仕事をしなければいけない。同じ働くにしても、時間の浪費を極力抑え、節約した時間で「閑暇」をひねり出す。ストイックに確保するからこそ、ゆるく使うことも許される...ざっくりそんな論理、というか感覚だろうか。

   さて私の半生はといえば、忙殺の人だった。要領はいいほうだが、ニュース相手の生活だからのべつ時間に追われていた印象だ。退職後は自由を持て余しつつ、人生の残り時間を計算するような暮らし。気がつけばツイッターにかまけている。孫からのラインにも「ひらがなしばり」で返さなければいけないし、ああ忙しい。

   これはまずいが、ストップウオッチを買うまでの覚悟は固まらない。とりあえずキッチンタイマーでも持ち歩こうか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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