“マドル・スルー”の精神、見習いたい
独断と偏見に満ちた意見だが、コンピュータ系技術者の8割が変人である。今回の『プロフェッショナル 仕事の流儀』に登場したシリコンバレーの技術者、渡辺誠一郎も間違いなく変人だ。摂氏5度のハイウェーをカブリオレの幌全開で走り抜けるのだから。
渡辺はアメリカのシリコンバレーで、デジタルカメラの画像やハイビジョンの映像の処理をする半導体チップのベンチャー企業を起こした。しかし経営は外部から雇った社長にまかせ、自分は技術開発に専念している。
彼の仕事の流儀は、「とがった部分を、さらにとがらせる」。たとえば、部下が会議の議題とは全く関係のないアイデアを語り出したとき、渡辺はそれを大歓迎し、そういった発言がしやすい空気を作る。たとえ実現性が低いアイデアでも、そういった破天荒なアイデアから新製品が生まれると渡辺はいう。
しかしながらプロジェクトに行き詰まり、進む道も分からなくなることはよくある。渡辺も起業して間もないころ、会社が倒産の危機に立たされた。だが、あらゆる解決策を考え実行し、もがきながらそれを打破した。そうやって荒波を乗り越えることをシリコンバレーでは「マドル・スルー(muddle through)」という。何度も襲いかかる行き詰まりをいかにマドルスルーできるかが、シリコンバレーで生き残れるかどうかの境目なのだ。
スタジオで「ご自身でマドル・スルーされて、それはいい経験ですか?」と問われた。渡辺は「二度と経験したくないですね」と笑いを誘った後に「必ず方策はある。頭で考えていてもダメで、動くっていう、行動するっていうことが大事」と答えた。
私にも、深刻ではないにしても、日々の生活の中で行き詰まりを感じることがたまにある。そういうとき、どう解決してきたか。解決に向けて道を探したことはあっただろうか。“マドル・スルー”の精神を見習いたいものだ。
最初にコンピュータ技術者のことを“変人”といったが、それは彼らが確固とした自分の世界を持っているから、そう見えるのかもしれない。のめり込むことができる世界を持っていて、その世界に没頭できることが、「プロ」の技術者としての必要条件なのだろう。