「ゆれる」
亡き直木賞作家・藤原伊織も激賞 「兄弟の心の葛藤」見事に描く

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   今年の1月半ば頃、友人の藤原伊織が入院先のがんセンターから電話して来た。筆者の昨年の邦画ベスト10に「ゆれる」が無いと注文をつけている。「兄弟の心の葛藤をあれだけ見事に描いた映画は最近無い」と。過酷な執筆と入退院を繰り返しながらも藤原はしっかりと映画を見ていた。恥ずかしいことに僕はパスしていたのだ。必ず見ると謝ったが、この5月17日に藤原が死ぬまでに実現できず、週末にDVDで改めて見たものだ。

(C)2006『ゆれる』製作委員会
(C)2006『ゆれる』製作委員会

   脚本と監督は西川美和。「蛇イチゴ」の、この女性監督は人の心理を洞察して抉る鋭い感性を持っていると感心する。藤原の言う兄弟の「ゆれる」葛藤を上っ面で無く、家庭環境や幼児体験、現在の経済状態、そして何よりもポジティブな東京と地方の閉塞したネガティブな町との差異や対比からも説き起こしている。

   東京で成功している主人公のカメラマン猛を演ずるのはオダギリジョー。「血と骨」「東京タワー」など演技は徐々に磨かれている。しかし早川スタンドを経営する兄の稔に扮する香川照之の上手さには敵わない。中国映画「鬼が来た!」の熱演に驚かされたが、ここでも気の弱い正直者で、弟にコンプレックスを抱いている兄を好演する。二人の父親がベテラン、伊武雅刀。酔って怒り卓袱台をひっくり返す気が短い父親。兄弟二人が好意を抱くのがスタンドの従業員、「パッチギ!」などの真木よう子。二人の叔父で裁判の弁護士、早川修役は蟹江敬三。

   主人公、早川猛(オダギリ)はカメラマンとして売れっ子。母親の一周忌で故郷、山梨の田舎の町へ車を運転して戻る。田舎には家業のガススタンドを切り盛りしている兄、稔(香川)がいる。法事も稔が細かいことまで気を使い、取り仕切っている。スタンドで働いていたのは幼馴染の智恵子(真木)。兄が好意を寄せる智恵子を、猛は法事の後に食事に誘い、アパートに上がりセックスをしてしまう。猛にして見れば東京でのいつもの行動だ。深夜家に戻ると稔は父親のものも含めて黙って洗濯をしている。稔は智恵子とのことを察しているかも知れない。

   翌日稔と猛と智恵子は蓮美渓谷にピクニックに行く。子供のように水遊びをする稔。智恵子は猛に近づき東京で新しい生活をしたいと。はぐらかす猛。猛は渓谷にかかる危なっかしい吊り橋を渡って写真を撮りに行く。智恵子も古い吊り橋を歩き出す。橋の怖い稔が彼女を引き止めると、その手を邪険に撥ね退ける。智恵子の冷たい拒絶で事件が起こる。

   橋から墜落し死亡した智恵子を、稔が突き落としたかどうかで裁判が始まる。法廷場面も迫力がある。稔の自白で始まった裁判なのだが、稔は前言を翻す。兄は昔の兄では無くなっている。兄を取り戻したいと猛は一生懸命に考える。面会シーンでは二人は慈しみ愛に溢れた言葉を交わしたかと思うと、非難し合い、激論を交わして仕切りのガラスを壊す勢い。

   吊り橋の上で何があったのだろうというミステリーも絡み裁判は進行して行く。吊り橋の「ゆれる」状態は二人の兄弟の心の「ゆれ」にも影響を与えている。

恵介
オススメ度: ★★★★☆
ゆれる
2006年日本映画・シネカノン配給・1時間59分・DVD:バンダイビジュアル発売
監督・脚本:西川美和
出演:オダギリジョー / 香川照之 / 真木よう子
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