「マーケットリサーチはやりません」本の本質つかむのが装丁家の仕事
中身も知らないのに、本やCDを思わず店頭で買ってしまった経験は無いだろうか。私は結構ある。
センスのいいジャケットのCDや、思わず興味がそそられるデザインの本。デザインは不思議なもので、その中身が全く分からないものでも手に取らせる引力がある。今回の『プロフェッショナル 仕事の流儀』ゲストは、数多くの有名著作を手がける装丁家・鈴木成一だ。
『鉄道員』『ブレイブストーリー』など、数多くの有名作品を手がけてきた売れっ子装丁家。たとえ「鈴木成一」の名前を知らなくても、ほとんどの人は彼の「作品」を書店で見かけたことがあるだろう。
鈴木はいままで数えきれないほどの装丁に携わってきた。しかし、どの本もデザインのニュアンスが違っている。有名デザイナーの手がける作品は、どこかその人の抱く世界観を感じさせるものが多い。例えば人気デザイナーの佐藤可士和であれば、彼の多くの作品を見たとき、それが間違いなく「彼のもの」であると感じ取ることができる。他のデザイナーもそういう場合が多いように思う。だが、鈴木の作品はそれをあまり感じさせない。一貫したデザインの法則が無いのだ。
番組中、番組ホストの茂木健一郎が鈴木に対し「最近は『こういう表紙が多いから、こういうのにしよう』みたいに、周りの本と比較してマーケットリサーチする編集者もいますけど、鈴木さんはそういう考えはしないんですか」と質問を投げかけた。それに対して、鈴木は「しませんね」と一蹴。
「本の内容が一番のディレクションだと思いますね。うちで『金持ち父さん 貧乏父さん』を手がけたんですけど、ああいうイメージの表紙をやってくれってさんざん来るわけですよ。言われたらやります。でも売れたためしがない」
本の内容を分かりやすくビジュアル化することこそが、装丁家の仕事なのだ。その本の本質を捉えて、目にする人の心をつかむ。広告と同じだ。内容が全く同じ本が無い限り、同じ様なデザインの表紙もありえない。中身から外を生む作業、それが鈴木成一の仕事なのである。