「ウミヒコヤマヒコマイヒコ」
舞踏家・田中泯の筋肉がしなる インドネシア踊りの旅

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   タイトルも変わっているが、へんてこな映画だ。だいたい舞踏家・田中泯なる人物が分からない。突如、山田洋二監督の「たそがれ清兵衛」に、主人公が命じられた「上意討ち」にあう敵役であらわれ、狭い暗い家の中の不気味な剣戟シーンで名前が知られた。職業は農民で踊りは命だ、と言う舞踏家だが、どんな踊りをするのだろうか?見たことがない。

「私は踊っている気なんですが、そう見えないかもしれません」
「私は踊っている気なんですが、そう見えないかもしれません」

   そんなところへ、田中が「踊りの始原」を求めてインドネシアを旅するドキュメンタリー映画というので試写に出かけた。映画冒頭、家の庭先でインドネシアの黒い子供たちのリズムに合わせた見事なダンス。だからさぞや田中も素晴らしい身体で華麗な踊りを披露するだろうと待ち受ける。身体は実際肋骨の見えるほどの細身に、薄いがしっかりとした筋肉がついている。容貌は丸顔に八の字眉毛、額に深く刻まれた皺、見開くどんぐりまなこ、グレイのボサボサ髪をなびかせ、陽に焼けた全身を剥き出してカメラに映る。

   しかし「これが踊り?」とびっくりすることばかり。立っている、座っている、フラフラ歩く、それだけのシーンが延々と続く。かと思うと水牛を追う、ヤギの群れの囲いで走る、大きな樹の周りを歩く。動きが早くなり段々踊り(?)らしくなる。

   45日間、北から南へ移動する。スラウエシ島は山と田んぼの旅で「ヤマヒコ」、スンバ島、ジャワ島、マドゥラ島は色んな道を歩き踊って「ミチヒコ」、カンゲン諸島では潮流に立ち尽くし海岸に流れ着いて子供に笑われる「ウミヒコ」。マドゥラ島では大結婚式に遭遇し紛れ込む。子供より牛を大切にする島で「女性の牛の鞭踊り」のショック。ようやくバリ島でまともな舞踏ショウ「MIN TANAKA BUTOH DANCE IN BALI」で本格的に踊り、「マイヒコ」。

   インドネシアの山村、漁村、水田や海辺などあらゆるところで33回も踊りながら巡って歩く旅。カメラは美しい景色をきっちりと収め、また画面もディゾルブ(徐々に暗くなる画面に少しずつ明るくなる画面が重なる手法)し、ダブルエクスポージャー(二つの画面を重ねる手法)して詩情を高める。映像はフィルムでなくDLPでデジタル上映される。

   子供たちとの交流が楽しい。水を張った田んぼで泥まみれになって大勢の子供たちと水掛け泥掛けに興じる田中。泥だらけの田中と子供たち。人糞の田んぼの泥って汚くないのかしら。田中は「踊りが野生を引き出す」と。

眠れる身体よ目をさませ!
大人の中に眠れる子供よ目をさませ!

   ナレーションを兼ねる田中はエンディングのメッセージで呼びかける。

   踊る肋骨、しなる腰骨、骨格にはりついた田中の筋肉のしなりは美しい。ハンディなHDカメラで追うので動きを真近に捉える。

   クレジットのスタッフを見て驚いた。監督の油谷勝海は電通でセールスプロモーションをやっていた後輩。退社後いつの間にかデザイン事務所を作り、監督業に進出したのだ。カメラの阪本善尚にはCMを随分やって貰った。コンビだった大林宣彦と別れて別の道を歩んでいるみたい。スタッフの中に東京藝術大学教授の木幡さんがいる。試写会場でMOMAの関係者に通訳していた。田中泯は個人的に知らないが関係者は良く知っている人たちだ。

   映画は確かに田中泯とその舞踏の精神を理解するに役立つが、2時間はやや長いんじゃないかな。

恵介
オススメ度: ★★★☆☆
2007年日本映画・タラ・コンテンツ配給・2時間00分・2007年6月2日公開(シアターN渋谷)
監督:油谷勝海
出演:田中泯
公式サイト:http://www.maihiko.com/
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