「長江哀歌」
ダムの底に沈む町「愛する人」の行方を探す

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   今年37歳になる中国のジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督。ギリシャのテオ・アンゲロプロスなみの長廻しで、時代の変化を感じ取る若者たちのエピソードを織り交ぜた「プラットホーム」や「世界」で独特の世界を作り上げている。既に数々の世界的な賞を授与されているが、この映画で2006年ベネチア国際映画祭の金獅子賞を勝ち取った。


   ジャ・ジャンクーはチェン・カイコーに影響されて北京電影学院に入学した。その彼が、学院の先輩カイコーやチャン・イーモウという文革後の中国映画を復興させた「第五世代」の監督たちを批判している。「彼らは商業主義に堕している」と。数々の受賞がその自信に満ちた発言を裏打ちしている。「彼らは現代社会に直面していない。真のリアリズムから逃れている」。例えばイーモウの作品は、主人公が窮地に陥った時に必ず偉い人が何とかして助けてくれるようなオチを用意している。これが観客に媚を売るコマーシャリズムだと。

   「長江哀歌」は2005年8月に長江三峡地域でクランクインした。2か月後にこの地はダムの底に沈む。経済がダイナミックに発展するいまの中国を象徴する三峡ダムが建設されるのだ。2600年もかけて作り上げられた文明が、たった2年で地元の人間の手で廃墟になり姿を消そうとしている。この地で着々と進む作業を目の前にしてジャンクーは5日で脚本を書き上げ、役者を呼び寄せて撮影を開始した。

   いつもの役者、小さな町、長廻しと同じスタイルで撮影が始まる。山西省からやって来た炭鉱夫ハン・サンミンは16年前に別れた妻子を探しに三峡の地にやって来る。人懐こい少年のバイクで役所を訪ねるが分からない。暫く三峡の街・奉節に腰を落ち着け、行方を探ることにする。宿には船でマジックショウをしていた若者マークがいてウマが合う。

   サンミンと同様に尋ね人をする女シェン・ホン(チャオ・タオ)がもう一人の主人公。三峡の工場に勤めている筈だが2年間音信が無い夫グォ・ビン(リー・チュウビン)を探している。夫の友人ワン・トンミン(ワン・ホンウェイ)がシェン・ホンに優しく接し、行方を追う。

   登場人物の背景で大きな鉄球がコンクリートのビルを粉砕し、建築機械やクレーンが音をたてて作動する。作り物で無いリアリズムで廃墟になる世界が描かれる。中国社会の歪みの中でも人間的な感情が行き来し、人間の生活が存在する。中国の自然を写した墨水画の美しさが一瞬のうちに機械工作で無くなる無機物の廃墟。古い中国と発展する社会の対比の中で、人間の愛や生はしぶとく存続する様を映し出す。一見の価値ある作品だ。

恵介
オススメ度: ★★★★☆
 長江哀歌(STILL LIFE)
2006年中国映画、ビターズ・エンド配給、1時間53分、2007年8月18日公開
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ / ハン・サンミン / ワン・ホンウェイ
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