「釣りバカ日誌18 ハマちゃんスーさん瀬戸の約束」
入場料1000円なら損した感じはない
松竹がTV局の援助なしで、たまには独自で作る映画。富士山が画面いっぱい堂々と雪を頂上に頂いた勇姿を見せるのでその違いが分かる。「釣りバカ日誌」シリーズは山田洋次のプロジェクトで、彼の弟子たちが歴代監督を務める。まあ2軍のマイナー野球だな。最初が栗山富夫、そして突然喜劇大ベテランの森崎東が1回だけのスペシャル(94年)、それから本木克英、朝原雄三に替わってこれが彼の5本目だ。「18」とタイトルでうたうが、森崎監督と栗山最後の作品がスペシャルだから、釣りバカ日誌も20周年記念で20本目ということになる。
趣味の釣りで同志の鈴木建設の社長スーさん(三國連太郎)と万年平社員のハマちゃん(西田敏行)のコンビは、寅さんと同様日本各地を廻り、釣りをして、地方の紹介で盛り上がる。しかしストーリーがワンパターンになるのは否めない。そんなに興行成績は上がらないと読んで、少ない宣伝費で利益を出そうとするマーケティングを取る。夏休みが終わって9月8日の公開も時期を外すし、入場料1000円にする政策も映画の質からこの程度と、身の程をわきまえていて宜しい。
今回は社長を引退して会長に就任するスーさん。ボケが始まっていてスピーチに立っても自分がそこで何をしているか分からない。救ったのはハマちゃん。創立以来の苦労が頭をよぎり感無量だろう、無言の立ち尽くしこそ感動する、とやって窮地を救う。しかし数日後、家から忽然と姿を消すスーさん。ハマちゃんの息子へ公衆電話から連絡があり、着信番号で居場所は岡山だと知れる。ハマちゃんは会長探しを口実に産婦人科の診断書で2週間の病欠を取り、釣り道具を一杯に背負い岡山の釣り場へ。
釣りバカおなじみのワンパターンながら、ボケ老人の問題を登場させる。実際、三國は一年見ないうちに頬はコケ、身体は痩せ細り、目はうつろで、演技でなくともリアルに呆けて見える。
もう一つの変化、これは今までに無かったテーマで、環境破壊運動だ。瀬戸内海に面する岡山の大野浜海岸は風光明媚、自然環境に恵まれ、ハマちゃんの釣り場として絶好の場所だ。そこに大リゾート計画。鈴木建設はその中心のゼネコンなのだ。スーさんにしてもハマちゃんにしても、釣りと会社との利益相反。現に現地説明会で川島営業部長(村野武範)が反対同盟で変装しているハマちゃんを怪しむ。反対派の高原昌平(高嶋政伸)と木山珠恵(檀れい)のロマンスが彩りを添える。
ストーリーは会社側に不利な展開になるも、会社万能主義を捨て環境重視に導くテーマは今までの釣りバカとは違う側面を見せる。落語のオチを何度も楽しむ心境の映画で、入場料1000円なら損をした感じにはならない。
2007年日本映画、松竹配給、1時間54分、2007年9月8日公開
監督:朝原雄三
出演:西田敏行 / 三國連太郎
公式サイト:http://www.tsuribaka-movie.jp/