「アサヒ芸能」がえぐった 裁判員制の「死角」

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   今週の現代の巻頭特集「独占告白!田母神俊雄前航空幕僚長『米軍撤退 核武装宣言』」を読んで、週刊誌の役割とは何かを考えさせられた。

   田母神氏のインタビューを掲載することがけしからんなどといっているのではない。だが、彼の発言が国会でも取り上げられ、メディアでも、批判派と擁護派が侃々諤々やりあった宴の後に出すには、それなりの工夫がなければいけないと思う。

現代の「田母神『告白』」 「タイミング遅いよね」

   現代のこれまでのスタンスから、田母神氏に批判的な論客を咬ませ、彼の考え方の「危うさ」を浮き彫りにするものだろうと読み始めたが、田母神氏が一方的に吠えまくっているだけで、編集部の注釈にも、彼の発言に対して批判的なことは書かれていない。

   第二次世界大戦で旧日本軍がアジアで行った行為を正当化し、「北朝鮮の拉致問題を解決するためには、日本の軍事力を増強せよ」「日本が自立した国になるのにもっとも有効な手段は、日本が核武装することだ」などといいたい放題である。

   この特集だけ見れば「諸君」「正論」「Will」かと見紛う。部数が苦しいために、女性読者ばかりではなく、右の陣営も取り込もうという「経営判断」なのだろうか。

   発売当日、「Will」の花田紀凱編集長に会ったから、どう思うか聞いてみると、「よくやったけど、タイミングが遅いよね」とひと言。

   私が現代にはじめてきた頃、「大森実の直撃インタビュー」が売り物だった。元毎日新聞の大物記者だった大森氏が、毎週、渦中の人物を招き、インタビューするのだが、その時の編集長が凄いと思ったのは、一部始終を丸ごと掲載するのだ。多いときは30ぺージ近くあったと記憶している。

   今でも覚えているが、問題発言をした政治家に来てもらってインタビューが始まった。冒頭から、大森氏が相手の発言に噛みついたため、政治家が怒って席を立ってしまったのだ。さぞ担当者は困ったのではないかと思っていたら、大森氏は、政治家と会うまでの経緯から、インタビューの一部始終、怒って帰ってしまったのはなぜなのかという分析を10ページにわたって克明に書き記し、その政治家の発言の真意と問題点を浮き彫りにしたのだ。米大統領とひと言交わしただけで、独占インタビューをまとめるなどと、いろいろ批判もあった大森氏だったが、この見事なまとめ方に、私は唸ったものだった。

「予断与えない事件報道」って何だ?

   雑誌の命は切り口にある。せっかく、新聞も雑誌もやらない「小沢一郎の金脈を撃つ」(松田賢弥)を連続追及している現代なら、田母神発言の切り口を見せてほしかった。

   その切り口で思わず手に取ったのは「アサヒ芸能」だった。来(2009)年5月から始まる裁判員制度に向け、「裁判員」候補者へ通知が送付されたことは、多くのメディアが扱っている。しかしアサ芸は切り口が違う。「徹底検証 ヤクザと裁判員制度!」。サブで「アサ芸でしか読めない『新制度のカラクリ』」とある。

   雑誌はこうでなくちゃいけない。確かに「ヤクザだからという理由で裁判員になれないということはない」(元判事で弁護士の井上薫氏)のだ。裁判員法では、警察官や弁護士、義務教育を終了していない者は裁判員になれないが、「ヤクザ構成員」という項目はない。

   前科や断指、刺青があればはずされるだろうが、職業を聞かれて、自分から「ヤクザをやってます」と答えるのはそうはいないだろう。選ばれたら、どのような判決を下すのだろうか。

   問題はもっとある。裁判員がかかわるのは凶悪事件だが、その対象になるであろう事件は2007年で2643件。そのうち殺人事件は556件あるが、その約23%の130件がヤクザがらみの事件だというのだ。

   被告は殺人を犯した組長。傍聴席は組のヤクザで一杯になっている。裁判長席の左右に並び、顔を晒している裁判員たちに「死刑判決」は出せるのか。

   私は、今の裁判員制度には批判的である。国民の大多数が不安を抱えているのに、なぜ拙速にやらなければならないのかがわからない。「予断を与えない事件報道」とはどんなものなのか。そこのところも不透明である。

   八百長問題も大事だろうが、国民を不安に陥れている裁判員制度という中途半端な「法律」に斬り込むことも雑誌の重要な役割だと思うのだが、いかがでしょうか現代編集長殿。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)ほか

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