改革とはこうするのさ ニューヨーク発オペラ新事情

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   ニューヨークのメトロポリタン歌劇場総裁ピーター・ゲルブ(54)は「クラシック界の変革者」と呼ばれている。「衰退しつつあった」(ゲルブ談)歌劇場再生のため、3年前の就任以来、さまざまな改革を試みて成果を上げてきたのだ。

世界の映画館で生中継

   「最も成功した取り組み」と国谷裕子キャスターが評価するのは、オペラのハイビジョン映像を世界の映画館で生中継したこと。その狙いを総裁は「生中継だと、その日の公演の出来はどうなるか、ファンには固唾を飲んで見てもらえる」として、「ファンの関心は歌手が高音を出せるかということだけでなく、その高音が美しく歌いあげられるか、10秒間20秒間、出し続けられるかを注目して見ている。それが非常にエキサイティングでスポーツ観戦と共通する」と説明する。

   映像も、歌劇の場面だけでなく、舞台がつくり変えられる様子、幕間のスター歌手インタビュー、楽屋、衣装部屋などまで捉えるドキュメント仕立て、それも、たとえば、ドミンゴを案内役に起用して見せるサービスぶり。31か国に配信し、今シーズンは世界で130万人の観客を動員する見込みだという。

   国谷が「観客が劇場に来なくなるのでは」と懸念すると、「生中継を通して、その劇場とファンのつながりを深めることが出来れば、次回はオペラハウスで生の上演を見てみたいと思うようになるはずだと確信していた。実際、そのとおりになった」と話す。

   ともすれば古めかしく固いイメージがつきまとうオペラを、現代社会とつながる芸術にしたいと、ゲルブは考える。トニー賞受賞のブロードウェー・ミュージカルの演出家、バートレット・シャーに「セヴィリャの理髪師」の舞台を任せたのもそうした意図からだ。

金融危機をどう乗り切るか

   「オペラを本来の姿に戻したかった。プッチーニ、ヴェルディ、ワグナーたちは、現在のブロードウェー・ミュージカルの作曲家たちと同じことを目指していた。自分のオペラを大衆に受けるヒット作にしたかったのだ」とゲルブは述べる。長身で落ち着いた物腰、語り口はソフトだ。

   こうして『魅せる』オペラをリードし、「世界で最も影響のある100人」として雑誌に紹介された総裁の前に大きなカベが立ちふさがる。100年に1度の金融危機である。

   運営費の半分を寄付金に頼る劇場にとっては、チケットの売り上げ減も予想され、この試練は厳しい。手始めに自らの賃金カットを決めたゲルブは、劇場のスタッフ全員に給与削減を求め、コストがかかる演目の再演も取りやめる。

   「状況が悪いときの方が改革を実行しやすい」と彼は言うが、ピンチを乗り越える手立ては見つかっていないらしい。「クラシック界の変革者」が、ビジネス面でも手腕を発揮できるかどうか。

   オバマ大統領就任式の取材に赴いた国谷のおみやげ企画と思われるが、かの地の劇場総裁を務める人の意欲的な仕事ぶりは伝わってきた。翻って日本の同じ職掌の方は活躍されているのだろうか?

アレマ

* NHKクローズアップ現代(2009年1月26日放送)

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