新高齢者医療制度が呼び起こす 健康保険「負のスパイラル」

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   タイトルは「揺らぐ」となっているが、現状はそんなものではないようだ。健康保険組合の解散が今(2009)年すでに14、来(4)月には8つが見込まれるという。理由はいわずと知れた新高齢者医療制度の導入だ。国民皆保険そのものが危うい。

   東京の大手タクシー会社。従業員・家族1万2000人の健保組合が解散の危機に直面していた。保険料収入27億円のうち高齢者拠出が、昨年は9億9000万円だったのが、新制度で13億5000万円にはね上がった。

「なんでそんなに負担しなくてはならないのか」

   組合はやむをえず、積立金2億6000万円全額をつぎ込んだが足りない。そこで、保険料率(月収の8.2%)の0.1%アップを考えた。これで3000万円の収入増になるが、その半額は会社の負担になる。しかしこの不況下で会社も苦しい。回答はNOだった。いま解散が視野に入っている。

   あきらめて解散したのが、運送業者500社でつくる埼玉県トラック健康保険組合だ。高齢者拠出金が5億7000万円もふえ、どうにもならなくなった。3月31日で解散。4月からは「協会けんぽ」に移行する。

   これまでのような独自の健康診断や保養所の利用など、手厚い保証や安心感はなくなる。「なんで、われわれがそんなに負担しなくてはならないのか。不公平ではないか」と経営者の1人はいう。

   現行健康保険制度の中身は3つに分かれる。

   ◇ 健保組合(大手企業・同業団体)3000万人 独自の運営
   ◇ 協会けんぽ(中小企業)3600万人 13%の国庫負担
   ◇ 国保(自営業、定年退職者)4000万人 半額国庫負担

   全体として健保と協会が国保を助ける仕組みで、これまで健保が2000億円、協会が5000億円を高齢者拠出してきた。それが新制度で一気に1兆円づつ上乗せになったのだ。この結果、1500ある健保組合のうち、9割が赤字になった。

見えない「いくら払えば何を保障」

   「健保」が崩れれば、影響は当然「協会けんぽ」に及ぶ。国庫負担の増だ。また中小企業にとっては、保険料の半額負担が重荷だ。この不況でさらに深刻になり、負担軽減を指導するセミナーが盛況という変な現象も起きている。

   ある人材コンサルティング会社は、正社員を業務委託契約(請負)にして、この保険料負担を削ろうとしていた。社員はこんどは国保に切り替えることになり、自己負担が増える。社長は「人としてどうなんだ、といわれるだろうが、やむをえない」という。

   より古典的な手口で、会社が負担額を減らすために、社員の給与を低く申告するというのがある。例の年金の確認騒ぎで明らかになったものだが、低額申告で指導を受けた事業所は、昨年度3万4000以上もあった。決して過去のことではないのだ。

   川渕孝一・東京医科歯科大学教授は、「負のスパイラルに陥っている」という。健保→協会→国保へと流れが進むと、結局は国庫負担が増えて、税金にはねかえってくると。確かに深刻だ。

   森本健成キャスターが「対策は」と問うた。川渕教授は「短期的には、健保組合への税金投入。だが中長期的なデザインが必要。皆保険は強制なのに、いくら払えば何を保障してくれるかが見えない」という。

   これで現状はわかった。が、新高齢者医療制度自体が妥当なのかどうか、結果として、制度が制度を潰している? そこまで踏み込まないと全体像は見えてこない。危機感と怒りがいまひとつ伝わらず。

ヤンヤン

* NHKクローズアップ現代(2009年3月5日放送)

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