チベット人兄弟の葛藤 予備知識なしでOK(風の馬)

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配給:アップリンク
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   <風の馬>外国のカメラが入ることが許されないというチベットの地で、アメリカ人スタッフにより製作された意欲作。

   舞台は1998年のチベットの首都ラサ。中国人の恋人を持つドルカ(ダドゥン)、夢も希望もない兄ドルジェ(ジャンバ・ケルサン)、出家した従兄弟のベマ(未公表)、この3人のチベット人を軸に物語は展開していく。ある日、中国政府によりチベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマの肖像の掲示が禁じられる。ドルカとドルジェの家族は従うが、従兄弟のベマはその命令に抗議し、警察に拘留され、拷問を受ける。瀕死の状態でドルカの家に担ぎ込まれたベマを看病していくうちに、中国政府による弾圧から目を背けていたドルカとドルジェの心は揺れる。

   2008年の北京オリンピック開幕時に起きた大規模な暴動・抗議運動は記憶に新しい。本作はそれから遡ること10年、1998年に製作された。当局による監視の目をかいくぐり、実際にチベットのラサやネパールで撮影を行い、実話をもとにチベットが抱える問題をストレートに描いている。それでいて内容は非常に分かりやすく、私のようなチベット問題に関して何の知識を持たない人間も惹きつける。主要人物であるドルカとドルジェ自身がチベット問題から目を背けているため、観客は彼らとともに、ゆっくりと問題に目を向けることができるのだ。ドキュメンタリーではなく、フィクションという手法を選んだ意味がそこにある。

   ただ、映画全体の評価を下すならば、通俗的過ぎるプロット、大人しいカメラワーク、役者たちの演技などがリアリティを阻害していたのが残念。当局の目を盗み、半ば命がけで作った映画なのだから、撮影中の緊張感をもっと作品に漂わせて欲しかった。

   11年前に製作された映画であるが、描かれているのはまさしくチベットの現状である。この映画が全く風化されることなく今日まで残ったということが、一番の問題なのかもしれない。本作が過去のものとなるにはどうしたらいいのか、それを考える出発点として、この映画を見て欲しい。

野崎芳史

   オススメ度:☆☆☆☆

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日本ジャーナリスト専門学校
通称ジャナ専。東京都豊島区高田にあるマスコミの専門学校。1974年の開校以来、マスコミ各界へ多くの人材を供給し続けている。

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