「おバカ」ブラピを愛せるか 「コーエン」前作は忘れよう(バーン・アフター・リーディング)
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<バーン・アフター・リーディング>前作『ノーカントリー』でアカデミー賞3部門を受賞したコーエン兄弟の最新作。CIAの機密情報の入った1枚のCD-ROMを巡り、ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジョン・マルコヴィッチなど豪華キャストたちが絡み合う。
オープニングは、宇宙から見たアメリカ大陸の画をバックに、出演者の名前やタイトルが刻まれていくというスケールの大きな演出。映画の内容もCIAの機密情報を巡る国家レベルの大騒動を思わせるのだが、そんな期待は見事に裏切られる。出てくる人物はたしかにスケールの大きいことをしようとするのだが、『おバカ』であるがゆえに失敗してしまうのだ。
iPod依存症男チャド(ブラッド・ピット)、全身整形願望を持つリンダ(フランシス・マクドーマンド)、CIAを辞めたアルコール中毒のオジー(ジョン・マルコヴィッチ)や出会い系サイトにはまる連邦保安官ハリー(ジョージ・クルーニー)など、何ともキャラの濃い『おバカ』ばかりが登場する。まさに、類は友を呼ぶ。おバカの周りにおバカが集まって勝手に大騒ぎする映画である。リンダの上司テッド(リチャード・ジェンキンス)が唯一のノーマルキャラで、普通にリンダに恋をしていて、普通に彼女の全身整形を止めようとするのだが、その普通さが逆に新鮮に見えるから面白い。
関係のない複数の人々が徐々に絡み合っていくという展開を楽しみたいのであれば、もっと良い映画はたくさんある。その点では以前紹介した『フィッシュストーリー』の方が結末として意外性があるし、シナリオ全体としてもしっかりしていると思う。
しかし、コーエン兄弟が一貫して表現してきた『人間の滑稽さ』は、過去のどの作品よりもストレートに表れている。この滑稽な人間たちをどこまで愛することができるかが本作を楽しむ鍵となる。
よって、前作『ノーカントリー』のシリアスで意味深いイメージを少しでも引きずっている人は見に行かない方が賢明だろう。滑稽な人間たちの群像劇を単純に楽しみたい人、豪華キャストの弾けた(おバカな)演技が見たい人、コーエン兄弟の熱烈なファンの人は見に行って決して損はしない。
野崎芳史
オススメ度:☆☆☆☆