「道徳超える快感…」 元将兵にみる紛争心理(沈黙を破る)

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(C)『沈黙を破る』
(C)『沈黙を破る』

   <沈黙を破る>監督の土井敏邦は、17年間によるパレスチナ・イスラエルの取材を経て、今年2009年にドキュンメンタリー映画『届かぬ声―占領と生きる人々―』全4部作を完成させた。『沈黙を破る』は、その4部目にあたる。

   単なる二元論では紐解けない「世界の問題」パレスチナ・イスラエル紛争。カメラはその底辺を、襲われる側から撮る。そこに映るのはフィクションと錯覚してしまいそうな「事実」である。難民キャンプでイスラエル軍の銃撃が鳴り響くと同時に、手持ちカメラが大きく揺れ、住人の悲鳴がこだまする。血の海と化した道路。屋内に運ばれた死体。その死体を見た遺族には、失神する者もいる。泣き叫ぶ者もいる。目の焦点が合ってない者もいる。スクリーンに映し出された事実を前に「映画の演出だったらな……」と、我々は現実から目を背けたくなるだろう。

   最も絶望に直面したのは、おもちゃのピストルを頭に打ちつけ、「こいつはスパイだ!」などと言って戦争ごっこをしている難民キャンプの子供たちである。自爆テロをした人物(彼らは殉職者と呼ばれている)の顔を模ったワッペンを手に取り「僕は自爆するんだ」と、瞳を輝かせ誇らしげに言う少年の姿には、この紛争に終わりがくることを疑ってしまう。

   『沈黙を破る』は紛争地の実態を至近距離で捉えた潜入ルポに留まらない。この映画の題名は、占領地に赴いた経験を持つ元イスラエル将兵たちによって作られたNGOの名称であり、「沈黙を破る」という加害側の証言というものは、この映画の最も重要なファクターである。

   「退廃的なプロセスが根を下ろし、道徳を越える快感が生まれ、その中毒になる」という元将兵の証言は、戦争が人間の心理を蝕んでいくことを表している。

   「加害の歴史」を清算しきれていない日本も決して無関係ではないはずだ。そして日本もこの紛争の解決に一役を買うことが出来るのではないか。それは、「歴史」から生まれた「普遍」の憲法9条を叫ぶこと、ではないだろうか。

   イスラエル側が「加害」を証言し、占領の実態と向き合うことは、新たな両者の「対話」を生む可能性があるだろう。『沈黙を破る』が、紛争の唯一の解決方法であろう「対話」の道しるべになることを願いたい。

川端龍介

   オススメ度:☆☆☆☆

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通称ジャナ専。東京都豊島区高田にあるマスコミの専門学校。1974年の開校以来、マスコミ各界へ多くの人材を供給し続けている。

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