「生きていくことがひとつの戦い」老棋士74歳の「火の玉流」

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   ことし(2010年)5月、一人の老棋士が引退した。有吉道夫9段、74才。「頭脳の格闘技」と呼ばれる将棋は強靭な体力、精神力が求められる。30代でピークを迎え、40代で衰え始め、50代で引退する棋士が多い。その中で有吉は、61歳までの22年にわたって最高クラスのA級に在籍した。平成13年には1000勝を達成、55年の現役生活で通算1088勝を挙げた。

   番組は、60歳を過ぎてなお有吉が現役を続けられた秘密を探る。

ただひたむきに「強くなりたい」

   スタジオゲストの羽生善治名人(39)は、「火の玉流」といわれる有吉の将棋を「攻めても受けてもアグレッシブ。闘志を全面的に出して対戦されていた」と話す。

   A級陥落後、引退を考えるようになった有吉は、同時に大きな衝撃を受ける。コンピューターを使いこなす若手棋士が、過去の対局がすべて蓄積されたデータベースを駆使して、常識を根底から覆すような新しい戦法を次々に編み出したのだ。

「1つの革命が起きたと思った」

コンピューターを使えない有吉はそう感じた。

   普通ならここで「ついていけない」と諦めても不思議はない。ところが「火の玉流」は違った。「将棋の奥の深さが初めてわかった」と現役続行を決意するのである。

   年間2000局に及ぶ対局を戦法別に分類、最近の戦法は1局1局、将棋盤に並べて研究を重ねる。毎週のように将棋会館に通って若手に頭を下げ、1日に何局も練習将棋を指す。雨の日、傘をさして将棋会館に向かう有吉の丸い背が目に残る。

「恥ずかしさは感じない方がいい。若い人の方が優秀だと思う方がいい」(有吉)

   相手を務めた若手棋士は、「有吉先生は疲れた素振りを見せたことがない。ひたむきに強くなりたいというのが、ひしひしと感じられる」と話す。

   努力が実を結び、クラスを落としながらも若手と互角に渡り合えるようになっていく。そして、昨年3月、負ければ引退という状況で会心の対局をし、上り坂の若手を打ち負かしたのだ。

「若手の何倍も努力すれば追いつける。追いつければ長年の経験、知識を生かせる道が生じる。努力した者が報われることくらい素晴らしいことはない」(有吉)

自分なりの最善手

   しかし、ついに終焉の日を迎える。が、その対局でも粘りを発揮した有吉はこう語る。

「自分なりの最善手を尽くして、それでダメならしようがない。年がいって生きていくことがひとつの戦いだ。どうせ負けるんだからという気力のない将棋は指したくない」

   国谷裕子キャスターが「勝負に向き合って行くモチベーションを維持するカギは?」と問うと、羽生は「情熱もあるし、知りたい、発見したいという好奇心もある。それを地道に着実につづけていくことが大切だ」と、引退した老棋士の生き方を後づけた。

   番組は「生涯現役」を貫くヒントを提示してくれるが、実践はなかなか厳しい、というのは怠け者のひがめか。

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