【取材秘話】一升徳利3本、「天気予報士」は地元の漁師

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取材秘話・フラッシュバック(3)


    大会3日目に大粒のにわか雨に祟られた。第3試合の開始が遅れ、試合途中に1時間22分も中断した。大会中の気象状況は気象レーダーを駆使して分単位で分かる。六甲の上に雨雲が来た!ひと雨来るぞ、グラウンド用のシートを用意しろ!試合を中断しても30分後に再開可能!と何かと便利な時代である。

    気象レーダーが採用されたのは1986年の第68回大会からだが、それまでは“カンピューター”任せの原始的な方法に頼っていた。朝日新聞の運動部員に「甲子園泊まり」という勤務割り当てがあって、甲子園球場の2階にあった和室に若い記者が交代で泊まった。夜中には「甲子園の主」が登場する。球場を取り巻きく蔦かずらの中に住むムカデさまのお出ましだ。「ザ、ザ、ザ、ザ」畳を掻きむしるような音がする。体長30センチもある大物もいた。ジッとしてやり過ごすしかない。

    次の朝早く起きて自転車で浜甲子園の漁師さんの所に出掛ける。「今日の空模様はどんな具合でしょう」。前日一升徳利を3本ほど渡してあるから、タオルで鉢巻して堤防に腰を下ろした漁師さんも嫌な顔はしない。その日は、「そやな、何とかなるやろう」という診たて。急いで帰って報告、「よしゃ、決行」となる。時には「今日はアカン、きよるで」という。雲はないのにと思ったが、不思議と「予報」は当たった。雲の色、流れ、波の立ち具合、そして風向き。土地の漁師さんが幾世代もかけて練り上げた観測術である。命と毎日の生活がかかっているから外れはまずない。

    甲子園の漁師仲間にはこんな言い伝えがあるそうだ。「朝焼けは三日のちに雨」「雲が京参りすると雨が近い」「巽の夕立は大きい」。スコアボードの東側に雨を見ると甲子園球場の整備員は急いでグラウンドのシートを張ったものだ。今は10分後の雷だって事前にキャッチできるが、漁師さんたちの予報は近代機器に勝るとも劣らない素晴らしい精度だった。

岡田 忠


岡田 忠(おかだ・ちゅう)プロフィール
スポーツジャーナリスト。1936年広島県生まれ。立命館大学卒。朝日新聞社東京本社編集委員を96年に退職して現職。高校・大学では野球部に所属し投手をつとめる。高校野球のテレビ解説経験も豊富。

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