心と身体が火照った軽井沢の極上の一夜

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   電車に乗っているとき、一人簡単な夕食を済ませたとき、洗濯物を干しているとき…。ふっと快楽の感覚がよみがえってくることがある。なにが引き金になるのかわからないが、火照ったようにあの甘美な夜が身体の中でうずいてくる。

   いま、ちょっとそんな気分を味わっている。仕事の合間にぼんやりしていると、すぐにそれはやってきて、その瞬間、脳内トリッピングが始まる。

濃厚な味わい「信州のジビエ」の官能

   先週末に行った軽井沢でのことだった。仕事を通じて知り合ったトラベルジャーナリストT女史からお誘いを受け、1泊2日の逃避行のプチ旅をしてきたのだ。向かった先は、星野リゾートが展開する「ホテルブレストンコート」と「星のや」。ホテルブレストンコート内に来年3月グランドオープン予定のレストラン「ブレストンコート ユカワタン」のレセプションパーティーがあるということで、いそいそと、いや舞いあがるような気持ちで、長野新幹線に飛び乗ったのである。

   レセプションパーティーなど縁もゆかりもない私。正直、何が行われるのか全く想像できなかった。きっと、ホテルの宴会場かどこかで、招かれたゲスト全員が大きなテーブルに会し、それぞれ試食していくんだろうなと軽く考えていたら、予想は見事に外れてしまった。わずか25席ほどしかない小じんまりとしたプライベートレストランのような空間で、ゲストはそれぞれに割り当てられた席でサーブを受ける普通のレストランと同じ雰囲気で行われた。それぞれのテーブルではゲストとその友人などが歓談している。ちょっぴりおめかしして、私もT女史と一緒にお料理を頂く。

   料理は、信州の豊かな素材を余すことなく使ったものばかり。プレスリリースには、信州という地の素材を極め、今(旬)を味わうのに最もふさわしい食材として、「ジビエ」に注目したと書かれている。ジビエは料理人が調理や鮮度管理、熟成など、最高レベルの技術をもって臨まないと本来の味を引き出せない素材なのだという。ジビエというと、雉や鹿など山や森のイメージというなかで、私達が頂いたのは「水のジビエ」。たとえば、「信州プレミアム牛と信濃雪鱒のプレステリーヌ」、「佐久穂で獲れた田螺(たにし)のガトー仕立て」、「千曲川で獲れた天然アユのファッソン」なんてのが木皮にプリントアウトされたメニューに記されている。

   それにしても仏料理の名前って、どうしてこうも覚えにくい名前ばかりなんだろう。隣のT女史に「小さなムニュのムニュってなんですか」とメニューを指さしながら聞いてみると、「ムニュはフランス語でメニューってことです」と失笑されてしまった。おぉ、はずかしや。

   さて、この「ブレストンコート ユカワタン」で腕を振るうのは35歳の浜田統之総料理長。端正な顔立ちの小学6年生みたいな感じで、清潔感のあるお兄ちゃん的雰囲気の浜田総料理長だが、なんと仏料理大会で史上最年少優勝したという若き天才シェフ。デザート含め全料理をほぼ一人で仕上げたと聞く。お料理はあまりにも繊細な細工が施され、ナイフを入れるのをためらってしまうほど。口へ運ぶと、官能的な濃厚な味わいが身体中にじわじわと広がっていく。アート作品のような素晴らしいお料理8品を2時間半ほどかけてゆっくりと頂く。まさに至福の瞬間だ。

ああ、自分がゆっくり溶けていく

   目で舌で、そして心で料理を堪能した後は「星のや」に宿泊。ワインでほろ酔いの火照った身体。冷たい夜風を浴びたくて部屋のテラスに出てみると、そこには澄み切った軽井沢の星空に青白い下弦の月が山の端を明るく照らしている。気がつくと頬を濡らす一筋の滴。

   あぁ、こんな非日常が東京からわずか1時間で経験できるんだ。ここのところ辛い仕事が多かったけど、今夜で何もかもが忘れられそう。一人きりで過ごす軽井沢の夜。身も心もストレスで充満していた私の体が、ゆっくりと溶けていくような瞬間だった。こう書いているだけで気分が安らいでくる。あの冷たい夜風が、この瞬間に吹き抜けていったような錯覚を覚える。自分自身で癒しのα波を出して、慰めているようなものだ。

   そう、こんなことでもなくっちゃ日々の仕事は頑張れないし…。身体がうずくような恋もいいが、身体が火照るほどの極上の旅もいいものである。

モジョっこ

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