2024年 4月 26日 (金)

「水産業復興特区」漁業権の民間開放で甦るか三陸漁業

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   陸前、陸中、陸奥(むつ)の3つを合わせて言われる三陸。その三陸沖の好漁場を擁して発展してきた沿岸の町がガレキの山と化して3か月が経とうとしている。カツオ漁が始まる6月は活気づくはずが、壊滅的な打撃を受けていまどん底にある。

   そんななか、宮城県石巻市では「震災前よりも強い水産業に生まれ変えさせたい」と、従来からのしがらみを断ち切り独自の再生に挑む動きが出てきた。背景にあるのは、村井嘉浩宮城県知事の「水産業復興特区」で、成功すれば震災前から高齢化、若者の漁業離れなどで衰退しつつあった水産業再生のモデルケースになるのだが、地元漁協の猛反発も表面化している。

全国一の水揚げ・気仙沼のカツオ壊滅

   全国有数の水揚げを誇っていた三陸沿岸の町々を津波が襲い、多くの漁船、市場、水産加工場が飲み込まれ、被害総額は9000億円に上るという。国は地盤のかさ上げなど港湾整備に補助金を出して復旧作業に取り組んでいるが、他の支援については手が回らず遅れている。

   カツオの水揚げ全国一の宮城県気仙沼港。6月になると三陸沖のカツオを追って全国から漁船が集まり活気づく。今年は絶望に近い状態だ。カツオを冷やすのに必要な製氷会社は全滅に近い。カツオ漁に欠かせない餌となるイワシが三陸沖では例年の2割しかとれない見通し。静岡県まで行ってイワシを買い付けているが、輸送代は1回で100万円の赤字になる。それでも、他の漁港に水揚げを持って行かれるのを防ぐために、背に腹を代えられないのだという。

漁業者と水産加工会社が共同会社

   こうした厳しい現状は、三陸沿岸の他の漁港も同じだが、国の支援を待ってはいられないと、石巻市の水産加工会社は新たな構想に取り組みはじめた。創業50年を超える水産加工会社の副社長・木村隆之さんは、「厳しいけど水産業を変えなければと考えている。このピンチは、逆に今までのしがらみを外せる可能性が十分ある。強い産業になるようやらなければ」という。

   木村さんが目指すのは、漁業者と水産加工会社が共同運営する法人の設立。趣旨に賛同する消費者から1万円の出資を募り、それを復興基金に漁船や漁具を調達し、付加価値のある商品を直接消費者に届ける。市場や問屋を通さない新しい水産業を目指しており、名付けて「三陸海産再生プロジェクト」。目標の会員は10万人で、始まったばかりだ。

   その下敷きとなったのは、知事の村井が打ち出した「水産業復興特区」だ。地元漁協が独占してきた漁業権を民間に開放し、民間資本を生かして地元漁業者と加工・流通業者が一体となって漁業を行うというものだ。ただ、村井は地元漁協との調整をせずに構想を発表したため、既得権を失うのを心配する地元漁協が猛反発し、特区構想の撤回を要望している。

漁協システム「面倒見てくれるがコスト高」

   キャスターの国谷裕子が「水産加工会社の新たな取り組をどうお考えですか」と聞く。岩手県陸前高田市出身で海洋政策論が専門の小松正之(政策研究大学院大学教授)は次のように答えた。

「日本の沿岸漁業は作るだけで終わっており、流通と加工の連携が乏しかった。それを一つに束ねて対応する考え方は、一歩前に進めたものだと思う。村井知事の言われた漁業権の問題で、民間へのリンケージを考えることも将来的には必要だ。
県が漁協に養殖などの漁業権を与え、組合員がそれを使うのを行使権というが、この行使権を得るために20万円、40万円、100万円を払うのが一般的なケース。漁協に属し、行使権の中でやっていれば漁協が何もかも面倒を見てくれるが、高くつく。
一方、漁業者が直接、知事から権利を得れば、販売や技術開発など単独ですべてやらなければならないが、半分は漁協と組み、半分は新しい形でやる方法もある。また、登記して自分の権利とすれば、若い人に譲渡もでき、貸し与えることもできる。
知事が言っているのはそうした多様性、選択肢を持たせるという意味だと思う」

   既存の殻を打ち破り、新たな枠組みが成功すれば、モデルケースとなり全国の水産業を変えるきっかけになる可能性がある。そのチャンスを生かせるのは苦境に立たされた今しかないのかもしれない。

モンブラン

NHKクローズアップ現代

(2011年6月1日放送「漁業の町はよみがえるのか」)
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