2024年 5月 7日 (火)

野良猫たちはどうやって「平和と共存」実現したか―秀逸ドキュメンタリー

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(c)2010 Laboratory X, Inc.
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   <Peace>『選挙』『精神』が海外で高く評価された想田和弘監督の最新作である。岡山市にある監督の妻の実家・柏木家に住みついた野良猫と人々の日常を描き、「平和と共存」の意味を問いかける。第35回香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。

   柏木寿夫は会社を定年退職後、福祉車両の運転手をしている。自宅の庭に野良猫が住みつき、えさを与えるのが日課の1つだ。妻の廣子はヘルパーを派遣するNPOを運営していて、週に1度、91歳の一人暮らしの老人の生活支援に出かける。一方、猫の世界では泥棒猫の出現で異変が起きていた。

あるがままに撮る想田和弘監督「観察映画」

   前2作と同様に、あらかじめ予定したものを撮るのではなく、撮れたものを編集作業で命を吹き込むスタイルで撮影されている。偶然性や意外性を重視し、その場でいま起きていることにカメラを向けてテーマを見つけていく手法を、想田監督は「観察映画」と称し、撮影も編集も製作も一人でこなす。

   老人と猫のそれぞれの生きている時間を切り取り「観察」していくことで、ゆっくり流れる時間と小さな世界の生活から、次第に「平和と共存」というテーマのヒントをつかんでいく過程は、スリリングな映画体験を見る側に与えてくれる。

   具体的な提示やメッセージ、音楽、ナレーションはいっさいなく、様々な要素を孕んでいる作品である。要素がバラバラだと映画はテーマを見失うが、そもそも「平和と共存」というテーマ自体が人類最大の難問である。

   この作品は「観察映画」が結果として撮れたものではなく、監督の観察眼が「必然的に撮ってしまったもの」であるということがよくわかる。つまり、テーマは後から生まれたが、「それがドキュメンタリーなのだ」という監督の考え方は一貫している。

   野良猫たちが泥棒猫にどのような対応して「平和と共存」を実現するか。この映画の一番の楽しみだ。

川端龍介

   おススメ度☆☆☆☆

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