被災漁民たち見守る「六さんのマキリ」震災1年目の夜にほっとしたドキュメント

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ドキュメント20min.(NHK3月12日深夜0時55分)>若いディレクターが作る20分間のドキュメンタリー番組だ。この日は「六さんのマキリは俺たちの絆」というタイトルで、東日本大震災の被災地で漁具も作る漁師が登場した。

   「徹底検証!あのとき原発は」みたいなドキュメンタリが悪いとは言わないけれど、悪者さがしだけではあまりにも希望がないんじゃないか。朝から晩まで震災特番に追われた3月11日だったからこそ、1日の終わりにこの番組を見てほっとした。

海の上のサバイバルナイフでつながる男たち

   岩手県山田町船越地区に漁師であり職人でもある男がいる。漁師歴50年。佐々木源六さんで、通称「六さん」が作るのは「マキリ」だ。魚のうろこを引いたり、邪魔なロープを切ったりと、海上でのサバイバルナイフに当たる道具で、腰にぶら下げ、柄にはエビやタイの彫刻を施す。漁師の傍らで始めたマキリ作りはもう20年になる。

   六さんの船は津波で壊れた。家は流れた。いまだに漁船の修理は終わらない。でも、高台の避難所に移った直後からマキリ作りをすぐに再開した。船越の漁師は六さんのマキリでつながっているからだ。六さんにマキリ作りを依頼した漁師・橋端さん(36)は津波で父を失った。だが、沖に避難させた船は無事だった。六さんは彼のためのマキリの柄を丁寧に彫り込んでいく。白木の地に黒々と艶のある字が浮かび上がる。よくある「大漁」ではない。形見の船「魂丸」の2文字だ。あえて金や銀のラッカーは使わず、六さん得意の魚の彫り物も施さなかった。引き締まった外観に橋端さんの顔がほころぶ。「あとは漁に行くだけだね」

   何も装飾のないマキリを大事そうに握りしめる若者もいた。震災の直前に漁師になることを決意した荒川くん(19)だ。すりこぎよろしく質素なマキリは六さんからのエールだ。「早く一人前になれよ」。父を津波で失い、六さんのマキリもがれき撤去に使うしかなかった荒川くんは、昨年(2011年)半ば、漁協の船でやっと初めての海に出た。きらびやかな装飾は「一人前になったら彫ってほしいです」

   脱サラ漁師にその師匠格のベテラン漁師。他にもたくさんの『六さんチルドレン』が登場した。いい笑顔にうっかり涙がにじんだ。「マキリはやっぱり海で使うもんだ」。嬉しそうにそう言いながら、漁港に並ぶ船越の男たちを見ると、ほおが緩む。そうだそうだ、草木やがれきの撤去にもマキリは役に立つけれど、やっぱりそれじゃあ違う。

見ているこちらが元気になった20分

   これからの漁業は大変だ。海に出られるようになった者がいる一方で、みんなで海に戻れる日が来るかはわからない。漁に行ったら行ったで、海水の汚染がどうかなんて話もある。マキリ作りに励みながらも、いまだ自分の船が直らない六さんの心中や、船の安否で天国と地獄が分かれた漁師たちの現状など、問うべきものは他にもあるかもしれない。

   でも多分、大丈夫。船越の海に出ているのは六さんの世話になったもんばっかりだから。ほっこりした気持ちであっという間の20分。明日も頑張るエネルギーが出るひと時でした。あんまりドラマ仕立てにしないのが心地よいね。「絆」の連呼なしに「絆」を感じさせるのがテレビってもんでしょう。

(ばんぶぅ)

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