<NNNドキュメント'12「戦場に咲いた小さな花 山本美香という生き方>
彼女は戦場で何を撮っていたのか…あきらめないジャーナリストの柔らかな眼差し

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   今年8月(2012年)に紛争の続くシリア・アレッポで銃撃戦に巻き込まれ、命を落とした日本人ジャーナリスト・山本美香さんの山梨の実家、職場に残されたデスクなど、彼女の足跡を追って人柄を伝えると同時に、「彼女は何を撮りたかったのか」を繰り返し伝えてくるのが印象的だった。肉親との手紙や未放送分の取材VTRなど初めて見る素材も多く、深夜に放送するのがもったいない。

   彼女の死以降、どんな状況で亡くなったのかとか、何をしてきた人なのかというニュースは多かったけれど、「じゃあ、実際に何を撮っていたのか」を見せてくれるところは少なかった。

絶望と隣り合わせの中に探した人々の日常

   生まれ故郷の映像と学生時代の写真で、生い立ちを駆け足で追いかける。新聞記者の父に憧れて飛び込んだメディアの世界だったけれど、衛星放送記者時代は「特にやりたいテーマがあったわけじゃなかった」。厳しい現場に飛び込むのは、学生時代から熱量と勢いを怖いくらいに発する目的意識の塊みたいな人だったからなのかな…と引いていた気持ちがぎゅっとつかまれた。普通の22歳だった。そんな彼女が雲仙普賢岳の火砕流現場をきっかけに、「この人の下で仕事がしたい」と戦場に飛び込むまでに変わったという。

   たびたび流れる美香さんが撮った映像というのがすごく良い。女性にしか入れない場所に、ひとりカメラを抱えて入っていって日本語で話しかける。全然通じていないようで、結構通じている。性別が理由で教育を奪われながら、抵抗して秘密の英語教室を行う女性たちの「凜とした」姿に感動を綴り、紛争地帯に住みながらも両親の腕の中でにこにこ笑う赤ん坊に話しかけ、思わず「かわいいっ!」と声を上げる。

   一方、DVで肌が焼け爛れた少女や、紛争で子どもを失った祖父らしき人の「ベイビー」という絶叫も映す。かくいう私は実はスプラッタが苦手で、目を背けてはいけないと思いつつ、怪我とか凄惨な虐待の痕が続く映像が見られない。でも、これは見られた。凄惨な画もあるけれど、多くは瞳の大きな女性や子供だったから。戦火の中の日常は絶望と隣り合わせではあるけれど、「悲惨だね、かわいそうだね」ばかりでもない。

「チクショウ!」ただ1度だけ彼女は怒りを叩きつけた

   衝撃的だったのは、イランのバグダッドで宿泊していたホテルの隣室が砲撃され、知り合いのカメラマンが亡くなったときの映像だ。不安げに「(砲撃は)どこなの」と叫んで館内を歩き回り、切れ切れにむせび泣きと悲鳴のような声をあげ続ける。そして「(被弾したのは)通信社の人じゃん、いつもの」と叫び、最後に「チクショウ!」と怒りを叩きつける。声を荒げた瞬間は、全編通してもここだけ。秘められていた激しい怒りに、「なぜ、ここまでできるのか」という問いが氷解する一瞬だった。

   そして、娘の死を知らせる電話に応答するお父様が立派だった。長い沈黙のあと、「死因は?」と尋ねる。電話先が慮って言い淀んでいる空気に気が付くと、「言って」と促す。「首を撃たれて、か。それは…認めざるを得ない」。嗚咽まじりに、でも電話先を責めるような様子はなく、聞くべきことを聞き、早く会わせてほしいと頼む。この父にしてこの娘あり、彼女が父に憧れてこの世界に飛び込んだことが納得できるラストシーンだった。(日本テレビ系10月15日0時50分)

(ばんぶぅ)

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