2024年 4月 26日 (金)

これも生きる知恵か?広がる「なりすまし」保育園に子ども預けるためOLに化けた水商売マザー

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   ニセ医師・看護師、ニセ1級建築士の話が後を絶たない。とくに多いのが建築士だ。7月(2012年)から3か月の間に14人が摘発された。地域も11都道府県 にまたがる。「なりすまし」は、一般の人にまで及んでいるという。どういうことだろう。

ニセ医者、ニセ1級建築士ゴロゴロ

   神奈川県の金属加工会社が工場の設計を1級建築士に依頼した。工場は規模が大きいので、1級建築士でないといけない。ところが彼はニセ者だった。 2級なのに長年1級になりすましていたのだ。すでにできている工場は耐震性など再度確認が必要となり、これに200万円かかる。

   9月に医師法違反で逮捕された黒木雅は大きな話題になった。3年の間に健康診断で1万8000人の問診や血液検査を行なって、3000万円の報酬を得ていた。しかも、独学で得た医療知識をもとに、医療系の予備校で講師まで務めていた。医師を名乗ることで報酬も2倍だった。

   それにしても、複数の病院がなぜ見抜けなかったのか。厚生労働省は医師の採用には医師免許の原本提出を指導している。免許には透かしが入っていて偽造できない。しかし、だれもが原本の持ち歩きを嫌う。コピーですますのが普通だという。

   黒木はネットから医師免許の画像をとりこんで偽造し、コピーを提出していた。病院も健康診断が集中する時期に医師の確保が大変で遠慮もあった。過去の病院勤務の確認も個人情報保護法のために難しかったという。

   バレたのは予備校からだった。「看護学科」と学歴にある大学に看護学科がなかった。予備校からの通報で警察が捜査しニセと判明した。関係者は「予備校が気づかなければいまも続けていたでしょう」という。氷山の一角だという声もある。

架空の証明書なんでも1通5000円

   驚いたことに、一般人でも「なりすまし」はあった。水商売のシングルマザーは、IT関係の「営業企画」という肩書きの名刺を持っていた。彼女は源泉徴収票が欲しかったのだ。水商売では源泉徴収票はない。しかし、保育所に子どもを預けるにも、アパートを借りるにも、源泉徴収票が必要だった。

   作ってくれたのは専門業者で、「アリバイ会社」ともいう。雇用証明書、内定通知書、なんでも1通5000円で作る。架空の会社の書類をつくれば違法だが、証明書の会社は実在する。業者が複数の会社を法務局に登記しているのだ。年間2000人以上の利用があるという。「ビジネスでもあるけど、人助けだ」と業者はいう。

   件の女性も、普通の生活をしたいと企業面接を繰り返したが採用されない。生活のための水商売と「なりすまし」で7年になる。「この助けがなければ、生きてこれなかった」という。

   大手調査会社によると、履歴書のウソや経歴詐称は日常茶飯事だ。「100回受けても受からないとなれば、少しでもよく見せたいというのも無理もない」という。きびしい雇用情勢が根底にある。

   詐欺師の話などで知られる作家の夏原武氏は、「特殊な職業でも垣根が低くなって、アリバイ会社やネット情報で簡単になりすましができる」という。シングルマザーの源泉徴収票の例をあげて、「本来、行政がきちっとしないといけないところを業者が補っている」のだと話す。

   夏原氏はさらに「むしろ問題は雇用する側にある。人間よりも資格や肩書き重視で、書類が整っていればという効率第一。人間関係の冷たさが根底にあるのです」ともいった。

   国家資格の詐称はともかく、普通に生きたいというささやかな希望すらかなわないシングルマザーの話が胸に残った。生活保護の悪用に比べれば、 源泉徴収票の「なりすまし」なぞ、たいしたことじゃない。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2012年11月1日放送「追跡『なりすまし』社会」)

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