<大災害時のリーダーシップ~沖縄で神様と呼ばれた男・11代斎藤用之助~>
108年前の硫黄鳥島「島ぐるみの避難移住」福島と重なる「新しい故郷への旅立ち」

印刷

   再現ドラマが本編の7割を占めるような作品はドキュメンタリーと言えない。だから、この番組も「ハズレかな」と思ったけれど、見ているうちに印象が変わった。サガテレビの制作で、第21回FNSドキュメンタリー大賞のノミネート作品である。

   明治36年の沖縄・硫黄鳥島の噴火で、久米島への島ぐるみ移住を先導した佐賀出身の役人・第11代斎藤用之助のリーダーシップを振り返る内容となっている。福島から佐賀に避難してきた家族の心情と、かつて硫黄鳥島から避難した旧住民の心情を重ねる演出もあり、なぜいま放送するのかという意図もちゃんと見える。

元島民の子孫たちが演じた「再現VTR」本物の涙に納得

   遡ること108年、火山が噴火して壊滅の危機にさらされた硫黄鳥島は、もともと琉球王朝の特産品である硫黄の原産地として栄えた離れ小島だった。住民の中には本土人への懐疑心も強かったし、硫黄産業という生活の基盤とそれに付随する温泉など、豊かな住環境を捨ててまで見知らぬ土地に移住することに、受け入れがたい気持ちもあった。

   それを一人ひとり説得して回ったのが斎藤用之助だった。反対派を服従させての移住強行ではなく、新たな住居を全額国負担で用意したほか、雇用の場も見つけ、全員が納得して故郷を離れられるよう尽力した。

   しかし、硫黄鳥島元住民のたちの末裔は、一部のお年寄りを除いて、どういう経緯で移住したのかを知らないという。そこで番組は、再現VTRで末裔たちに演じてもらうことにした。わざとらしい付け髭などの扮装に棒読みのセリフが続くことは容易に予想される。

   大丈夫かと初めは思ったけれど、見ているうちに印象が変わった。ルーツを良く知らない移住民の子孫たちが、再現劇を撮るうちに、出自に誇りを持つようになっていくのがわかる。安っぽい再現VTRが続くドキュメンタリーくらい冷めるものはないのだけれど、当事者参加型だと思うと、演技が下手なのも味と思って見守ることができる。すると、その人たちならではの部分(沖縄の方言での会話など)もあいまって、すごく良かった。たどたどしかった出演者が、「移住をしましょう」と説得されて島民全員で土地を離れることなるシーンでは、本物の涙を浮かべている。気持ちを追体験するのに、真剣に演じてみるというのは良い方法なんだなぁ。

福島から佐賀永住を決めた一家の決断…サガテレビの意地が光る秀作ドキュメンタリー

   再現ドラマから現代に舞台を戻してのラストでは、今も沖縄県の久米島に住む硫黄鳥島住民の子孫は108回目となる移住記念日を祝う。自分たちのルーツを知った今年は、事前に斎藤用之助の墓参りも行った。移住を終えたとき、用之助は住民に向かって「これから、この地をみんなの故郷とするのだ」と力強く声をかけたという。後戻りはできないからこそ前を向いていく。移住の日は無念の日ではなく、みんなで祝う記念日なのだ。

   最後に、福島から佐賀に避難して国への不信を口にしていた木村さん一家が、佐賀に永住することを決意したと伝える。時代も場所も違っても、「故郷を捨てる」決断は重い。木村さんの表情にぐっと引っ張られる。地元のエピソードと住民をフルに使った作品である。地方局の意地が光る1時間でした。(フジテレビ系10月30日深夜2時50分)

(ばんぶぅ)

  • コメント・口コミ
  • Facebook
  • twitter
コメント・口コミを投稿する
コメント・口コミを入力
ハンドルネーム
コメント・口コミ
   

※誹謗中傷や差別的発言、不愉快にさせるようなコメント・口コミは掲載しない場合があります。
コメント・口コミの掲載基準については、コメント・口コミに関する諸注意をご一読ください。

注目情報PR
追悼

お知らせ

電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中