<雄勝・法印神楽の復興>
「メソメソしてちゃだめだ」伝統神楽復活で取り戻す暮らしとつながり―被災地にもようやく「ハレの日」

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コピーライト「日本ユネスコ協会連盟」
コピーライト「日本ユネスコ協会連盟」

   宮城県石巻市雄勝(おがつ)地区は山と海に囲まれた小さな港町で、600年以上伝わる神事がある。伝統芸能の「雄勝法印神楽」だ。神話をモチーフにした演目は計28種あり、横笛と太鼓に合わせて、面をつけた地元の人々が舞う。昨年3月(2011年)の東日本大震災で津波の被害を受けたこの町が、2年ぶりに神楽を奉納するまでを追ったドキュメンタリーで、監督は漫画家の手塚治虫氏の子息である手塚眞さんが務めた。

   完成記念上映会と銘打ったイベントは、渋谷ヒカリエの8階の一角で行われた。フロアの中央に作られた簡易シアターは収容人数が約80人で、上映前に監督が映画を撮るまでの経緯を説明した。依頼を受けたときは、「町の復興もまだという状況で、なぜいま伝統芸能なのかと思いました」と疑問を持ったという。

   しかし、現地を訪れて、この行事を執り行うことが、町全体の精神的支柱になっているということを実感したのだそうだ。歴史をつなぐことは未来への希望になる。制作者の思いに触れられるのも小さな箱の良い所だ。

ニット・チノパン姿のおばあちゃん…舞台では別人のような舞い

   冒頭、カメラは震災以前の雄勝法印神楽の風景を追う。演目と演者を決めるのは奉納の当日であるとか、所作に大きなルールはあるが細かいアドリブは演者に任されているなど、神事の決まりごとを見ていく。並行して、雄勝法印神楽の特徴についての説明もある。ボクサーのように小刻みなステップ、観客参加型の舞台であることなどだ。

   地元のおばちゃんが観客席から舞台に引っ張り出されると、別人のように見事な舞を見せるシーンは圧巻である。面を付けて布を羽織っただけなのに、赤いニットにチノパン姿のおばちゃんはもういない。演者を圧倒し、場を自分のものにする。

   先の大震災で海の近くの集落は46軒のうち45軒が流された。面や楽器など神楽に使う道具も流されてしまった。雄勝法印神楽保存会の会長も津波で行方不明となった。それでもやめなかったのは、全国からの援助と地元の人々の前向きな姿勢があったからだ。大事な太鼓が海を隔てた隣島に漂流して手元に戻るという奇跡もあった。

   新たに就任した会長の下で舞台を組み直し、「いつまでもメソメソしてちゃだめだ」と語る地元の人の強さが心に染みる。この日のために故郷に帰り、新たに演者に加わったという地区出身の大学生の舞の初々しさも、やっぱり染みる。人手が足りない部分はボランティアを募集した。町の外の人と中の人が一緒になって神楽を作るのは初めてのことだという。

「まだこんな日本があった…」心地よい静かな感動

   見終ったときに一番強く残ったのは、「まだこんな日本があった…」という驚きだった。雄勝法印神楽では、その年に生まれた子全員が舞台に上がり、竜神さま役の演者に抱かれるという。「ハレの日」に向けて町が浮き立ち、すべての仕事を中断して神事に当たる。それってすごいぞ。震災後の東北のドキュメンタリーで、改めて「残すべき故郷」の姿に触れることが多い。全国公開も興業的な成功も難しいだろうけれど、有名人は1人も出てこないけれど、観てほしい映画です。

(ばんぶぅ)

おススメ度☆☆☆☆

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