<明日の空の向こうへ>
こんな貧しい村もう嫌だ!少年たちの旅の先にあったのは…健気さと狡さが突きつける大人社会のウソ

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(C)Kid Film2010
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   『僕のいない場所』(2005年)、『木漏れ日の家で』(07年)で、居場所を失くした子供たちを描き、好評価を得たポーランドの女性監督ドロタ・ケンジェジャフスカの4年ぶりの新作である。ソ連時代の荒廃した貧しい村で物乞いや盗みをしながら暮らす3人の少年が、貧しい暮らしから抜け出すために命を懸けて国境を越えてポーランドを目指す姿を描いていく。

追っ払われた露天商から食べ物せしめる悲しいしたたかさ

   10歳と6歳の兄弟、ヴァーシャとペチャ(役者も実際の兄弟)、同じ境遇の友達である11歳のリャパを見る監督の目は、甘えや同情を意識的に排除しようとしているように見える。旅先の景色の中に少年たちを溶け込ませていく印象深いカットは、何にもとらわれることのない自由の象徴のようだ。

    少年たちはとにかくたくましい。物乞いをし、露店の女性店主に追い払われても、ペチャは奇跡のような愛くるしい表情で店主にお世辞を言い、ちゃっかり食べ物をせしめてしまう。生き抜くために身につけた彼らの処世術なのだろう。そうしていかなければ、世間という名の大人社会の荒波にのみ込まれてしまうのを知っているのだ。

   ペチャはまだ6歳で、兄たちから置いてきぼりにされようとすると、必死で走って追いかける。たくましいだけでは、一人では生きていけないということは知っているし、3人でいれば心の傷口が閉じた状態でいられることも知っている。旅先の些細な出来事から3人の心情を描いていく監督の演出は心憎く、確かである。

サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」キミは読んだことがあるか?

   今にも崩れそうで危うい心は、年代は違うが、J・D・サリンジャーの不朽の名作『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデンを連想させる。ともに大人を利用することに長けているが、決定的に違うのは、ホールデンは自分が大人であることを自覚しているが、映画の3人はまだ10歳前後で、自覚できる自我は持ち合わせていない。3人は未知に夢を託しているのだ。未知に憧れを抱き、未知があるからこそ国境を越える覚悟を持てる。家がない子供、親のいない子供にとって、未知は希望となる。この境遇が大人になっていく通過儀礼であるならば、余りにも過酷であるが、大人の思惑など跳ね除けて彼らは何度も立ち上がるのだろう。

川端龍介

おススメ度☆☆☆☆ 

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